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システム理論 ~人と環境~

人と様々な環境(自然環境、社会環境、人間環境)を別々にとらえるのではなく、一体的なシステムとしてとらえる視点のことをシステム理論といいます。

ソーシャルワーカーは、クライエントが向き合う課題の背景には生活空間における不適切な交互作用があるのではないかと考え、クライエントと環境のどちらかに問題があるのではないかと問うのではなく、人と環境の接触面に焦点をあてて介入し、システムの修正や開発を試みるのです。

システム理論がソーシャルワークに与えた影響

物事を全体的にとらえようとするシステム理論の概念は、ソーシャルワークの統合化に大きな影響を与えました。

それまでソーシャルワークの伝統的な援助方法にはケースワーク、グループワーク、コミュニティオーガニゼーションの3つがあり、ソーシャルワーカーは各方法論で対応していました。

しかし、それぞれが専門分化し方法論に傾斜することで社会問題の変化に対応できなくなり、ソーシャルワークの存在意義が問われるようになっていきます。

そこで、援助の対象を個人、集団、家族、地域といったように独立したものととらえるのではなく、人とその人を取り巻く環境が相互に影響し合って作用している一つのシステムととらえるシステム理論がソーシャルワーク領域にも導入されるようになりました。

システム理論におけるソーシャルワーク実践では、クライエントの課題解決には、個人の性格に焦点を当てるのではなく、システムの構成要素であるクライエントとその人を取り巻く環境の一部である援助者やその機関のあり方、社会システム等を切り離さずそれぞれの交互作用に着目します。

また、不利な状況に置かれているクライエントが自分自身の力で問題や課題を解決し、自己効力感を高めていけるようなエンパワメントアプローチも求められます。

リッチモンドと「社会環境」

ケースワークの基本的な枠組みと科学的体系を示したリッチモンドは、1922年『ソーシャル・ケース・ワークとは何か』の中で、ケースワークを「人間と社会環境との間を個別に、意識的に調整することをとしてパーソナリティを発達させる諸過程から成り立っている」と定義し、「社会環境」という用語を用いました。

また、個人と社会環境に関する洞察を前提に、ケースワークを「個人の心理へはたらきかける直接的活動」と「社会環境を通じてはたらきかける間接的活動」に整理しました。

ミルフォード会議〜ケースワークの統合化「ジェネリック」

1923年から1928年まで毎年ペンシルバニアで開催されたミルフォード会議では、専門分化していたソーシャル・ケースワーク領域の団体が集まり、ケースワークのあり方に関して議論されました。

1929年のミルフォード会議報告書では、ソーシャル・ケースワークの関心は「環境における個人の正常な社会生活を組み立てる能力(自己維持)」にあると述べつつ、「自己維持は常に所与の状況に関連している」とも述べ、人は常に「環境(状況)」の中の人間としてとらえられるとしました。

また、同報告書では初めて「ジェネリック」という概念が登場し、ケースワーク、グループワーク、コミュニティワークの主要3方法の統合化へのさきがけとして評価されました。

ケンプと「環境」

ケンプらは1997年『人-環境のソーシャルワーク実践』の中で、ソーシャルワーク実践のアセスメントと方策の焦点はこれまで「人」に多く向けられ、「環境」については関心が払われてこなかったことを指摘し、その不均衡の是正を試みました。

ケンプはソーシャルワーカーに向けて、環境を志向する実践の基本的な枠組みと、環境アセスメントと環境介入の実践的な指針を提示しました。環境を①知覚された環境、②自然的・人工的・物理的環境、③社会的・相互作用的環境、④制度的・組織的環境、⑤社会的・政治的・文化的環境の5つに分類し、ソーシャルワーカーには「ストレスに満ちた生活状況に対処し、環境の課題に応え、環境資源を十分に活用できるよう、クライエントの能力を獲得したいという感覚を向上させる」、「個人的なソーシャルネットワークの動員を強調し、環境における活発なアセスメント、契約、介入によって、目標を達成する」と示しました。

ケンプらの環境アセスメントでは、①環境が人間のニーズをどの程度満たしているか、②環境に存在する長所と資源、③環境の障害物の3側面が必ず調べられなければならないとされました。

ピンカスとミナハン ソーシャルワークの「4つのサブシステム」

ピンカスミナハンは、ソーシャルワークを一つのシステムと考え、その下に存在する4つのサブシステムの相互作用に関心を持たなければならないと唱えました。

4つのサブシステム

クライエント・システム
 個人、家族、地域社会、グループ、組織など援助の対象となる小集団

ワーカー・システム(チェンジ・エージェント・システム)
 
ワーカーとワーカーの所属する機関や組織、組織に所属している職員全体

③「ターゲット・システム
 問題解決のためにクライエントとワーカーが働き掛ける対象

④「アクション・システム
 クライエントに変革をもたらす人材、資源、援助活動など


補足

・システム理論は、ソーシャルワークに限らず、様々な分野において複雑な現象を理解するためのアプローチとして発展

・システム理論の起源は古く、初期のシステム思考は哲学者や数学者によって提唱された

・20世紀にベルタランフィが「一般システム理論」を提唱

→システムをその構成要素や部分から分離せず、全体としてとらえるという考え方

システム内の各部分は相互に影響し合い、変化の際にはその他の要素にも影響を及ぼす

要素還元主義なものではなく、解放システム

サブシステムという別のシステムが存在すると考え、様々な事象の解明に有効とされた

・同時期に、ウィーナーサイバネティクス(制御と通信に関する総合的な理論)を提唱

→システムはコミュニケーションにより制御する機構をもっている、という情報のフィードバックの概念を導入、機械と生命の相似性を強調

福祉分野においては、サイバネティクスのアプローチがシステムの制御やフィードバックの理解に役立つ

福祉サービスの提供過程では、顧客のフィードバックを収集し、サービスの質や効果を向上させるための調整が行われる

T.パーソンズはサイバネティクスを社会福祉に結び付けた代表的な人物

A.ピンカスA.ミナハンはそれを更に発展させ、社会福祉の技術理論まで導入

ピンカスとミナハンの4つのサブシステム

クライエント・システム(個人、家族、地域社会などクライエントを包み込む環境すべてのもの)

チェンジ・エージェント・システム(ワーカーシステム。ワーカーとワーカーの所属する機関)

ターゲット・システム(ワーカーが働き掛ける対象)

アクション・システム(クライエントの変革をもたらす人材、資源、援助活動など)


ソーシャルワークの理論と方法


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