八田千明の除霊事件簿
目の前で田崎が噴水のように吐血し、自らが作り出した血の池に突っ伏して動かなくなった。
過去に何度か一緒に除霊をしたことがあるが、田崎の実力は俺と同等。ただ、呪具の構成が攻めに偏っていた。それが生死を分けたのだろう。
俺は自分の胸元を見る。さっきパパパパンッと連続破裂した身代わり護符。多めに12枚持ってきたが、全滅だ。
「あ……あ……」
右の方に、へたり込んだ巫女の少女。
がくがく震える手足で立ち上がろうとしているのを見て、俺は慌てて叫ぶ。
「動くな! 運気を下げられてるぞ!」
田崎のような、体内への直接的な霊障こそ無かったようだが、少女はただ立ち上がるだけで、運悪く転んで、頭を打って、死ぬレベルで因果がズタズタにされている。
たった一回すれ違っただけでコレだ。なぜこんな大怨霊が?
「良い指示。じっとしてて」
後ろから低い女の声がかけられた。
「八田さん!? いつの間に」
巫女の少女が呆然と呟く。
その視線を追って振り向くと、ブレザー姿の若い女が立っていた。
これがあの八田?
若手随一の除霊師と評判の? 初めて見た。
大きめのトートバッグを肩にかけて、まるで買い物帰りだ。
八田はバッグから水筒を取り出し、巫女の口元に当てて飲ませる。
「わっぷ、これお神酒?」
「お神酒と飲むヨーグルトのカクテル。単体より効く」
「ヨーグルト……?」
「乳酸菌の効能。フ、フ……。さあもう大丈夫。撤退して」
覚束ない足取りで去っていく巫女に目もくれず、八田はバッグから輪ゴムで留めた分厚い短冊の束をひょいと俺に放り渡した。
「予備の護符を貸す。補助して」
「逃げた方がいいんじゃねえかな。この現場は普通じゃない」
「持ち込んだ装備で対処できる。補助が一人居れば」
「俺じゃ役に立たない」
「そんなことはない。これを持って」
八田はトートバッグを押し付けるように渡してきた。重い。
「つまり荷物持ちか」
俺はバッグから水筒を出し、一口飲んでから、八田と一緒に歩き始めた。
【続く】
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