卒業式殺人事件

 重い。
 暑い。
 疲れた。
 止めどなく溢れる汗で、ずるりと手が滑ってすっぽ抜け、俺は尻もちをつく。
 心臓が破れそうだ。
 耳鳴りがする。
 肩関節と腰の痛みも酷い。
 全身汗びっしょりで気持ち悪い。
 時間は惜しいが立ち上がる気力も無い。
 俺は座ったまま進行方向を見やる。
 遠い。
 まるで近づいている気がしない。
 あの遠い遠い校舎の角を曲がって、さらに二階まで上がって、そんで流れ出した血の跡の始末もしなきゃならない。
 気が遠くなる。
 だが急がないと。
 意を決して立ち上がり、綾子の腕を掴んで、引きずり始める。
 重い。
 暑い。
 疲れた。
 バラバラ殺人をする気持ちがよくわかる。
 死体運びなんて、小分けしなきゃやってられない。
 死んでからも俺に迷惑をかけるなんて、酷い女だ。
「クソが」
 綾子の頭を蹴った。
 体力の無駄だ。
 それでも蹴る。
 軽く頬を張っただけでぎゃあぎゃあ騒いでいた綾子は、今は無言だ。
 無口になったのはいい変化だ。
 重い。
 暑い。
 疲れた。
 最初の10分くらいは彼女を殺した後悔とか、罪悪感とかが胸を満たしていた。
 今は重い・暑い・疲れたの3フレーズで感情が埋め尽くされている。
 生きてるうちに、ダイエットしろともっと強く言っておくべきだった。
 いや、ダイエットしろと言ったら綾子が逆ギレしたんだから、それが発端か?
 違う、発端は綾子が太っていたことだ。
 だから綾子の自業自得だ。
 俺は運が悪い。
 はじめて出来た恋人がこんなクソ女だった。
 ちょっと強く蹴っただけでそのクソ女が死んだ。
 極めつけに、俺のクラスには探偵がいる。
 ふざけるな、何が中学生探偵だ。


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