「失恋ビギニング」を分析してみた

週刊少年ジャンプ2021年47号に掲載の読み切り「失恋ビギニング」(作・一ノヘ)について分析・考察してみました。

■扉絵
玄子とおうがは白黒。きりん・お嬢様・ヤンキー・宇宙人がカラー。後者4人は非現実的な「ラブコメ世界の住人」ということか?

■1~16P 現状の説明
●おうがは愛も恋も知らない。恋愛漫画は好きではない。が、漫画家志望として殻を破り視野を広げるためにラブコメ研究の一環としてきりんたちを観察していた。

●おうがのきりんたちへの感想、評価。
「安っぽいラブコメ」
「気持ちわり」
「そんなことあるか?」
「個性的な蛾」
「関わりたくない」
「(きりんに対して)ラッキースケベ。目立たない。一見人畜無害」
「(玄子に対して)敗けヒロイン、特になし、無難、地味。幼馴染で真面目で眼鏡、それだけの女」

また
「クソみたいな学園生活」
「みじめな思いで興奮できるほどマゾじゃない」
というモノローグがある。

※おうがはラブコメ組への反感だけでなく現状全体に対して不満を覚えている。

■17~22P おうがと玄子の共闘(?)場面
●おうがの玄子への評価
「無愛想で身格好に無頓着でいもっぽい」
「本の順番はきっちり並べる。いただきますする」
「ライバルの悪口だけは言わない」
「キャラは薄いが少しは報われてもいい」
きりんを想って笑顔になる玄子を見て悲しくなる。

※共同作業を繰り返すうちに玄子に好意を覚えるおうが。自覚はなさそう。

■23~41P 玄子の自殺未遂
●おうがはラブコメ組のことを調べるうちに、きりんが人に好かれるのにふさわしい人間であることに気づいていた。
●同時にお嬢様・ヤンキー・宇宙人たちも、それぞれが魅力的な主役になれる魅力を持つことにも気づいていた。
●おうががラブコメが嫌いな理由
魅力的な登場人物が、恋に全てをかけてしまい、己の潜在的な可能性を投げ売ってまで没頭してしまうこと

※屋上への階段の脇にきりんがいる。つまり彼はおうがの少し後にやってきた。
→おうがが助けに来なければきりんが助けていた。
→おうがが来なければ、玄子はきりん主役のラブコメ世界における脇役としての生き方を今後も続けていくことになっていた?

おうがはきりんより早く玄子のもとに駆けつけて自殺を阻止したことで、きりん主役世界から玄子を脱出させたという展開か。


■42~46P その後
●43P 背景の本棚に「初恋ファイナル」の単行本(5巻まで。冒頭で「単行本5巻にならないくらいで打ち切られそう」と言っていたので、評価がやや上方修正されている)
●44P 「初恋ファイナル 終劇」の原稿
●46P 背景の本棚に「玄子の日常」の単行本。背表紙の絵が髪を切った後

※上記の暗示的描写によって、玄子がきりん主役世界の脇役を終えて、自分主役の生き方に乗り換えたことが示される。
・一方で、おうがは自分が玄子への恋心を抱いていることを自覚しつつも、彼女主役のラブコメ世界に引きずり込まれているんじゃないかという戸惑いが見られる(?)


■まとめ
●本作は、「安っぽいラブコメ世界の敗けヒロインを、彼女が主役の世界へと移籍させる」物語である。

●一方、恋愛を知らずラブコメを頭ごなしに低く見ていた主人公が、玄子とのやりとりを経て恋愛の知見を得、漫画家志望者として一つ成長する……という筋があるものと思われるが、そちらは紙幅が足りなかったのか、前フリを回収しないまま終わった感がある。

●やや穿った見方だが……ラブコメファンの一部には、敗けヒロインが、主人公に振られた後に、別の男とくっつく展開を非常に嫌う層がある(独占厨などと呼ばれる)のだが、そういう意見に対する反論「振られたらすぐに次の恋を探したっていいだろ、一生引きずって独身でいろってのかよ」という主張が入っているのかもしれない。

※なお本作には「いちご100%」のオマージュという説があるが、私は「いちご100%」を履修していないのでその点についてはわかりません。

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