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「学習性無力感」って、人をこんな状態にしてしまうんだ

赤羽雄二さん『自己満足でない徹底的に聞く技術』で書かれている
アクティブリスニングを実践中の畑中です。

『消された一家』北九州・連続監禁殺人事件(著:豊田正義)を読んで、衝撃を受けたので、今回はその話をあなたにしたいと思います。

あらすじ

七人もの人間が次々に殺されながら、一人の少女が警察に保護されるまで、その事件は闇の中に沈んでいたー。
明るい人柄と巧みな弁舌で他人の家庭に入り込み、一家全員を監禁虐待によって奴隷同然にし、さらには恐怖感から家族同士を殺し合わせる。
まさに鬼畜の所業を為した天才殺人鬼・松永太。人を喰らい続けた男の半生と戦慄すべき凶行の全貌を徹底取材。渾身の犯罪ノンフィクション。

『消された一家』北九州・連続監禁殺人事件(著:豊田正義)

首謀者である「松本太」の内縁の妻「緒方純子」が「松本太」のコントロール下で次々に殺害していったのは、「緒方純子」の父親、母親、妹夫婦、甥、姪です。

この書籍を読むきっかけは、『ウシジマくん VS. ホリエモン 人生は金じゃない!』で、この事件の首謀者「松永太」の人生のポリシーが紹介されていたことです。

「私はこれまでに起こったことは全て、他人のせいにしてきました。私自身は手を下さないのです。なぜなら、決断すると責任を取らされます。仮に計画がうまくいっても、成功というのは長続きするものではありません。私の人生のポリシーに、『自分が責任を取らされる』というのはないのです。(中略)私は提案と助言だけをして、旨味を食い尽くしてきました。責任を問われる事態になっても私は決断をしていないので責任を取らされないですし、もし取らされそうになったらトンズラすればいいのです。常に展開に応じて起承転結を考えていました。『人を使うことで責任を取らされなくて良い』ので、一石二鳥なんです」

『消された一家』北九州・連続監禁殺人事件(著:豊田正義)

どうしたら、こういうポリシーを持っている人が育ち、人はコントロールされ家族まで殺してしまうのかを知りたくで、『消された一家』北九州・連続監禁殺人事件(著:豊田正義)を読み始めました。

「DV」と「断絶化」がもたらすもの


DV、親しい人たちとの絶交をさせ、洗脳していき、無抵抗・判断力を奪い、次々に親族や関係者を殺していく過程が生々しく描かれています。

 「最初は」自分自身には、暴力を受けるような品行の悪さはないと思っていました。でも、具体的なことを取り上げられて、何度も同じ質問を受けているうちに、自分が間違っているのかもしれないと思うようになりました。いま考えれば、松永の巧みな話術によるものだと思いますが、当時は自分が悪い、と思い詰めていきました」
 これは典型的なバタードウーマン(DVの被害女性)の心理状態である。夫や恋人との二人だけの閉ざされた世界で、「おまえが悪い。だから俺はこんなことをするんだ」と暴力を振るわれていると、大概の女性は自己を非難する思考を植え付けられる。自尊心が壊され、「殴られても当然な自分」という自己イメージを抱くようになるのだ。やがて抵抗する意思も失い、過酷な暴力に耐えて理不尽な要求に従うことが、被害者のアイデンティティーになってしまう。
 松永は、この心理的作用を熟知し、極めて冷徹に完璧に純子を支配していった節がある。

『消された一家』北九州・連続監禁殺人事件(著:豊田正義)

そして、多額のお金巻き上げながら、通電や食事・睡眠・排泄制限などの虐待を加えられることで、人はこんなにも人間性を失ってしまうのかという読むに堪えないことが、書かれていました。

 ジュディス・L・ハーマン医師の『心的外傷と回復』には、人を奴隷化させるのは、心的外傷をシステマティックに反復して痛めつけることだとある。そのためには、被害者の無力化のみならず、断絶化(すべての対人関係からの切り離し)をすることも必要不可欠である。
 そしてハーマン医師は、「心理的支配の最終段階は、被害者がみずからの心理原則をみずからの手で侵犯し、みずからの基本的な人間的つながりを裏切るようにさせてはじめて完了する」と述べている。

『消された一家』北九州・連続監禁殺人事件(著:豊田正義)

ハーマン医師が述べている支配方法と同じ方法で、「緒方純子」は洗脳されていきます。

なぜ、その暴力がおかしいと思い、逃げないのか?
なぜ、そんなことをさせられないといけないのか?
なぜ、ここまで人は他人にコントロールされてしまうのか?

と疑問が湧きながらも、「DV」と「断絶化」によって、思考力と抵抗力を奪われていくと、「操り人間」「無抵抗」「無判断」になってしまい、恐怖から逃れるために「操り人形」になることが自分の願いと錯覚していくことをノンフィクションの本書籍が教えてくれました。

洗脳された「緒方純子」が、首謀者の「松永太」から解放されるために、自殺未遂をしたことがあります。

自殺をしようとしたのは、「家族や親類や友人に嫌がらせの電話を入れさせられ、私がいることでずっと迷惑をかけ続けるんじゃないかと思い、自分で自分の存在が恨めしくなったからです」と語っている。つまり、これほど惨い仕打ちを受けても、松永を憎悪するのではなく、自分自身を非難していたのだ。そして、DVによって植え付けられた自己嫌悪感は限界に達し、自殺する心境にまで追い込まれたのだろう。

『消された一家』北九州・連続監禁殺人事件(著:豊田正義)

「学習性無力感」は「廃人」にまでする

この事件では、全員で7名の方が死亡しています。そのほかにも、「松本太」と関わった人は皆、自殺をしたり、精神科に長期入院しています。

一人目の死亡者は、「緒方純子」の家族ではない、「清志」という金づるの男性で、「恭子」という娘を人質に取られ、コントロールされていき、最後は衰弱死させられます。

本書籍に書かれていた「清志」に加えられた制裁の一部です。

 恭子は、過酷な制裁を受けている父親の屈辱的な姿を、鮮明に覚えていた。
 たとえば食事のとき・両顎に通電され、食べ物が口から飛び出て床に散らばってしまい、「もったいない!」と叱られながら拾って口に詰めこむ父親の姿。トイレに行けないので漏らしてしまった下痢便を食べるように命じられ、汚れたパンツごと口に詰めてチュウチュウと吸い、尻の便を拭き取ったトイレットペーパーも水といっしょに飲み込み、オエオエと涙を流している父親の姿……。恭子はこうした場面を驚くほど淡々と語っていったが、「それを見ていたあなた自身はどう思っていましたか」と検察官に問われたときには、語気に力を込めて、「松永がお父さんを人間扱いしていないと思っていました」と即答した。

『消された一家』北九州・連続監禁殺人事件(著:豊田正義)

このような拷問が連日行われ、金の工面ができなくなってからは、「清志」への通電は凄惨を極めます。その後、衰弱死したあとの死体の隠蔽方法は、あまりに残酷で異常なので、ここでは記載を控えます。

とにかく驚愕することばかりが書かれていましたが、「松永太」と関わりを持つまで、「緒方純子」をはじめとした方々は、九州の片田舎で代々続く土地を使って農業を営みながら全うに生活していたり、元幼稚園教諭や元警察官などの仕事をしながら社会生活を送っているごく普通の人たちなのです。

「松永太」とつながるまでは、犯罪と関わるような方たちではなかったのに、「恐怖」と「断絶」により、廃人化させられてしまいます。

コントロール化から解放

監禁から逃れた「恭子」により、この事件が発覚し、「松永太」と「緒方純子」は逮捕され、「緒方純子」はコンロトール化から解放されます。

初公判から3年4ヶ月が経過し、24時間後に死刑判決を言い渡されるかもしれない刑事被告人である「緒方純子」と著者の豊田正義さんが20分の接見時間をもらったときのやりとりが紹介されています。

 「事件当時の暮らしでは、ぜんぜん感情を表に出せなかったんですけど、いまはできるようになりました。弁護士の先生や警察の方々と話すうちに変化していきました。松永からは『俺以外の人間は誰も信用するな』と脅かされ続けていましたから、それが刷り込まれていて、こんな私を支援してくださる方々のことも初めは疑っていました。だけど、今はやっと人を信用できるようになりました。だから、豊田さんにも会いたいと思ったんですよ」
 拘置所での生活について訊くと、まるで天国だという。
 『食事もできるし、お風呂にも入れるし、トイレにも自由にいかせてもらえる。読書の時間さえあるんですから……。ただ、贅沢を言えば、もっとたくさんの人と面会できたらと思います。たとえ拘置所の中でも、人とお話しできるのが、今の私にとって何よりの楽しみなんです』

『消された一家』北九州・連続監禁殺人事件(著:豊田正義)

『逃げられない状況こそがDV被害者』の最大の特徴で、徹底的に孤立化され逃げられなかった「緒方純子」は決して特殊なことではないそうです。

 私の周りにいる人たちには、
「恐怖」と「断絶化」ではなく、「安心」と「つながり」。
「奴隷化」と「否定」ではなく、「アクティブリスリスニング」と「ポジティブフィードバック」。

健やかな人を育て、健全な人間関係を育むために、大切なことを犯罪ノンフィクションから改めて学びました。

苦しくつらい子育てから抜け出し、家庭を安全基地にしたい方へ、情報を更新しています。

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