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レバークーゼンから利き足へのプレスとゲームプランにおいての「質的優位」について考える

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皆さんこんにちは、宮下白斗です。久しぶりにnoteで記事を書いていきます。自分は13歳の時に「13歳のサッカー戦術分析」というタイトルでこのブログを始め、それをきっかけとして福山シティFCというクラブでコーチ・アナリストとしてのキャリアをスタートさせる機会を頂きました。そして3年間の間にスクールコーチ・トップチームコーチ/分析官を務め、その間に対戦相手分析やMTGの実施を担当したり、昇格をかけた試合を経験することができました。今後については追って報告させてもらいます。
この3年間noteの更新は滞っていたのですが、今後は現場で得た知見を活かして現場目線・スカウティング目線からは試合がどのように見えるのかや、さらにはサッカーを「戦略」の視点から考える記事を書いていければなと思っています。

さて、今回のテーマはドルトムント対レバークーゼン。試合は3-2でレバークーゼンが勝ちました。後半のドルトムントの巻き返しも良かったのですが、序盤に畳み掛けて3点を奪ったレバークーゼンのハイプレスを切り口に、利き足ベースのプレスやゲームプランにおいて重要な要素についてみていきます。

この記事は、英語で書いた記事を日本語に直し、加筆したものになります。


1.レバークーゼンのプレスの設計

ドルトムントはIHのブラントとバイアーはセカンドトップに近い高さに立ち位置を取ることになっており、4-1-2-3というより4-1-5のような配置でした。レバークーゼンの守備のベースは4-4-2でしたが、ハイプレスの時は4-1-3-2に(図1)。ドルトムントがGKのコベルまでボールを下げたときに、アンカーのヌメチャを捕まえるために2DH(ダブルボランチ)の左側が一列上がるからです。多くの場合この役割を担当するのはジャカでした。前線では シックがライヤソンの前に立ち、共に2トップを組むテラは対面のリュースを空けておく。チーム全体としてはマンツーマンで相手全員を捕まえます。

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図1

レバークーゼンの狙いはドルトムントを右サイドへ追いやることでした。恐らく相手GKのコベルが右利きであることが主な理由でしょう。コベルの利き足側、つまり自分たちの左サイド側からプレッシャーをかけてコベルがパスを出しにくくし、ビルドアップの起点を抑えてしまおうというわけです。右サイドのSHフリンポンとSBムキエレが左サイドのSHグリマルドとSBインカピエよりもスピード、肉弾戦に長けているという見積りも影響していた可能性があります。そのサイドへ仕向けた方が相手が長いボールを使った時の回収率が高いからです。
また、右CBのライヤソンよりも左CBのリュースの方がプレッシャーを受けた時にミスをしやすい、あるいはリュースは右利きの左CB(一般的に左利きの方が配球しやすいとされる)なので彼にパスを受けさせれば良い、という考えもあったかもしれません。ただ二人は主力のCBではないので、ドルトムントとしては主力の負傷による苦肉の策として二人を起用したはず。従ってレバークーゼン側がリュースがスタートで出てくるとは読めていなかった可能性も十分にあります。

2. レバークーゼンの2点目

レバークーゼンはハイプレスでボールを奪ってのショートカウンターで2得点を挙げ、それを含む開始20分の3得点で大きく優位に立って試合を進めました。8分目の2点目(動画1、図2)は前章で紹介したプレスの典型的な形でしたので紹介します。

動画1

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図2

ドルトムントがコベルにボールを下げると、DHのアンドリッヒがヌメチャを、続いてCBタプソバがバイアーを捕まえ、チーム全体は4-1-3-2のハイプレスの態勢へ。コベルがボールを足元でキープしたので、右CB(ライヤソン)側にいるテラがコベルの右足へプレッシャーをかけて左足で長いボールを蹴らせ、そのセカンドボールを回収してカウンターへ転じて鮮やかにフィニッシュ。相手キーパーの利き足に圧をかけて逆足を使わせビルドアップを妨害するという狙い通りの形からの得点でした。

IH(セカンドトップ)のブラントとバイアーの立ち位置を修正して以降、ドルトムントは少しずつ下で繋いで前進できるようになっていって行きます。後半はむしろドルトムントがレバークーゼンのプレスを空転させ多くのチャンスを生み出す試合展開になるのですが、適応するまでの間にスコアが1-3となってしまったのが致命的だったと言わざるを得ません。

3. 2つのトレンド

次にレバークーゼンのアプローチに含まれていた、今季よく見かけるようになったプレスのかけ方を2つ紹介します。1つ目はマンツーマンで全員を捕まえること。多くのチームがやるように、レバークーゼンも誰が誰につくかをはっきり決めてフリーの相手が生まれることを回避する方法をとっていました。

GKとCBからの配球を妨害するための利き足へのプレス、つまり利き足を抑えることをベースに据えたプランニングが2つ目です。こちらが本題です。理由としては、とりわけGKの配球能力の向上があります。CFにグラウンダーや胸に落とすパスを通すなど、一撃で局面を打開するパスを出す能力を持った選手が増加していることから、「サイドを限定する」ではなく「利き足を抑える」考え方の普及が進んでいるのだと思います。利き足側からプレッシャーをかけると結果的に片方のサイドへ誘導することにはなりますが、サイドへ誘導することではなく相手の利き足に優先順位を置いてプレッシャーをかける方向(右から・左から/内から・外から)を決めチームとしてのハイプレスを設計する傾向が生まれているということです。

ドルトムントはCBとGKの3人全員が右利きでした。GKコベルがボールを持つと、4-1-3-2の2(=2トップ)の左側の選手が寄せるので、これはコベルの右足への圧力になると同時に右CBライヤソンへのコースを背中で消すことにもなります(図3)。このプレッシャーによって左CBリュース側へ誘導することになるのですが、リュースに対してもテラが内から外へ、リュースの利き足の右足に対して圧力をかけることができます。つまり2トップの左側の選手を起点にプレスをかけ、「右利き・右利き」の組み合わせのGKと左CBそれぞれの利き足を抑えられる設計になっていました。

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図3

実はこの試合、ドルトムントはシュロッターベックという左利きの、CB陣の中で最もビルドアップに長けているであろう選手を欠いていました。彼が出ていた場合、左CBの利き足が左足になるので、利き足ベースのプレスは設計の変更が必要になります。仮にシュロッターベックが出場していたとすれば、レバークーゼンはフリンポンが外からシュロッターベックの左足にプレスをかける形をとったかもしれません。

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図4

もとの4-1-3-2と同様にコベルに対しては左側からプレスに行って右足へ圧をかけ、シュロッターベックの左足を抑えるために右ワイドからフリンポンを押し出す(図4)。それに連動してター、ムキエレがカバ、ギテンスを捕まえ、ジャカとアンドリッヒがバイアーとブラントをマークすることになります。

4.ゲームプランと質的、数的、位置的なもの

ここまで利き足ベースのプレスについて見ていきました。ここからは自分の3年間の経験からの類推ですが、トップレベルにおいて、相手の利き足であったり身長、スピード、それから決定的なスルーパスやクロスなどの「選手の特徴」からの逆算がゲームプランの割と大きな部分を占めているんじゃないかと思います。よく質的優位、数的優位、位置的優位と言いますが、「どうやってその試合に勝つか」という目の前の目標に対してのアプローチにおいて、質的優位の重要性は一般に議論されるよりも高いということです。

人がプレーするものだというのは確固たる事実ですし、スタイルが浸透しているチームであっても出る選手によって変わるものは多いです。マンチェスター・シティにとってのロドリはその最たる例でしょう。そしてそうである以上、数的優位や位置的優位も選手によって、「誰が」そこにいるのかによって大きく意味が変化します。ロドリとコバチッチが同じように良い立ち位置にいたとしても影響の及ぼし方は異なり、位置的優位のあり方も異なります。

従って、目の前の試合に勝つということについて言えば、選手それぞれの質的な部分がより重視されると思うわけです。過密日程のため試合に向けた準備期間が限られているという現実的な問題もあります。

誰と誰がマッチアップしていて、そのカバーに来るのは誰、といった「質的な部分」は見逃されたり「戦術に従属するもの」として扱われたりしやすいのですが、トップレベルの試合では恐らく非常に重要視されているので、数的・位置的な視点からだけでなく質的な視点からも試合を見るともっと面白くなるかもしれません。

今回はこの辺りで。
ではまた。

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