逸れ者戦記

そのゴブリンは手斧のたったの一投で、エルフの一個小隊の持つアサルト・マジック・ライフル全てを真っ二つにした。

…それこそドッグランで愛犬に「とってこい」でもするかのように、重厚な作りの手斧を投げたのだ。それが明らかに手斧とも、ましてやブーメランとも違う、奇ッ怪な軌道を描きながら明確に意志を持って12人の持つ銃をたたっ切り、ご主人様の手元に過たず戻ってきたのだ。

エルフの小隊の間抜け面どもが、一体全体何が起こったのか理解ができずに1.5秒フリーズし、やがて先頭の野郎が戸惑いと共に残骸を見下ろした。その瞬間ゴブリンの若者はゴーグルをヘルムの額に押し上げてようやくハッキリとこう言った。

「意味はわかるだろ?失せろよ。次は頭だ」

「手前ッ…」先頭の隊長格エルフが忌々しげに表情を歪めると、ゴブリンの若者の野球ボール大の目玉が、今度は明確な殺意を持って睨み返した。

それ以上の脅し文句をゴブリンの若者が言い始める前に、激しくやかましい機械音が奥の方から鳴り響き、地面が揺れた。

揃って足元を掬われ慌てるエルフ小隊に、ゴブリンの若者が細くもガッシリした2本の脚で仁王立ちしてさらに曰く、「手前ら野盗の散兵如きのご尊顔を真っ二つにするなら、別に手斧でなくともいくらでもやりようはあるんだぜ?」

直後後ろの丘から現れ出たのは、駅前にでんと在すファッションビル並みに巨大な砦だった。バカでかいタイヤが三つしつらえてあり、こっちに全速前進してくる。"村級"の移動庄だった。

状況が不利と見るや否や、口々に罵りながらウッド・エルフ野盗小隊は一目散に撤退した。そのおおよそはゴブリンの若者のこれまたでっかい耳に届くことはなかった。

若者は顔を顰めて中指を立て…そのまま動かない。移動庄の巨大タイヤはその背中に瞬く間に肉薄し…若者の5センチ手前で止まった。「ドニー、何してやがる!早よ乗れ!」頭上から拡声器越しに、がなり声が響いた。

【続く】

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