結合自由エネルギー計算の理論 その1

本記事では錬金術的な自由エネルギー計算法に焦点を当てる。

自由エネルギー差は理論上は直接計算できる

自由エネルギー摂動法(Free Energy Perturbation; FEP)によると、状態1と0の自由エネルギー差は以下のように計算できます。

画像2

Aは自由エネルギー、ΔUは状態0と1のポテンシャルエネルギー差を表しています。
状態0と1を結合状態と非結合状態という風に解釈すればよいです。

つまり状態0と状態1の分子動力学計算をそれぞれ行えば自由エネルギーが算出できることになります。

ちなみに類似の手法として熱力学的積分(TI)法やBAR法があります。
現在はBAR法がよく使われるようです。

実際には中間状態が必要

しかし、実際には話はそう簡単ではありません。
ΔUが大きい場合、収束が遅く使い物になりません。

つまり、ΔUが小さい範囲で計算を行う必要があります。
状態0と1の間に多数の中間状態を挿入するのです。

たとえば、中間状態が3つとすると、

{状態0, 状態1}={100%,0%},  {75%,25%},{50%,50%}, {25%,75%}, {0%, 100%}

みたいな感じです。
最終的にこれらの自由エネルギー差を合算して終了です。

結合状態と非結合状態の中間の状態なんて現実には存在しないわけですが、シミュレーション上はこれで結合自由エネルギーが求まってしまうので、錬金術的(alchemical )自由エネルギー計算とよく言われます。

ちなみに中間状態を表すのにはよくλが使われます。
状態0をλ=0、状態1をλ=1とし、λ=0, 0.1, 0.2, 0.3,のような感じで徐々に変化させるわけです。

実際には中間状態の数はこの10倍くらいあります。

溶媒和自由エネルギーを例にとって説明

まずは比較的単純な文献[4]の溶媒和自由エネルギー計算を例にとって説明します。

これはエタノールの溶媒和自由エネルギーを求めています。溶媒は水です。

λ=0をエタノールが水に溶けている状態、λ=1をエタノールが気相にいて、水と別々に存在している状態とします。

λ=0→1の自由エネルギー変化が溶媒自由エネルギーです。

さて、分子動力学で、エタノールと水の間にはどのような相互作用が働いているでしょうか?

ひとつはvdW相互作用、もうひとつは静電相互作用です。
λ=0をどうやって表現するかというと、vdW及び静電相互作用がエタノールと水の間で全く働かないようにするのです。
つまり、エタノールは水の中にいるけど、水とは全く相互作用を起こさない。これがλ=0です。

中間状態も2つの相互作用について設定する必要があります。
具体的には先に静電相互作用を小さくしていき0にしてから、vdW相互作用を小さくします。これはvdW相互作用を先になくしてしまうと、原子間が非常に近づいた状態で静電相互作用が働いてしまうからですね。

文献[4]はチュートリアルということで非常に簡略化していますが、実際にはもっと中間状態の数は必要になるようです。

次回余力があったら、絶対的および相対的な自由エネルギー計算について書きたいと思います。

参考リンク

[1]

https://link.springer.com/protocol/10.1007%2F978-1-4939-1465-4_9

[4]




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