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編集ことはじめ 台割

今、タコシェで自宅待機中の店員たちが画集を制作しているのですが、それで自分が初めて本の編集をした時の事を思い出しました。

それは写植からDTPに移り変わる端境期、フリー(ライ)ターだった私は、演劇関係のレビューを書く機会が多かったことから、演劇祭のパンフレットの編集を任されたのでした。

それまで雑誌の編集会議に出たり、編集者たちが原稿をチェックしたり写植を貼ったり校正する姿は見てはいましたが、編集の勉強をしたこともなければ、ましてや仕事にしたこともなく、何をどうしたらよいものかわからず、とりあえず台割(ページごとに内容を割り振った本の設計図的なもの)を作るために、身近な編集者に台割の基本について訊いてみることにしました。当時はgoogleもなければ、編集ガイドをすぐにポチることもできなかったのです。

まず、サブカルチャー誌のN君。年齢も近く、物怖じせず人なつっこい彼は担当編集者というより、友達みたいに話がしやすかったのです。
編集部で「台割の基本とか定石ってあるの?」と尋ねると、「あー、台割ね…」とつぶやき、ちょうど脇を通りかかった先輩編集者を呼び止め
「台割りってどうやって作るんですか?」とズバリ質問してくれました。
次の瞬間「お前、ふざけるんじゃねぇよっ!」と、お叱りとともにビンタが飛んできました。私は思い切り引きました。
しかしメンタルの強いN君は「いや、ふざけてませんよ、ホントに台割ってどうやって作るんですか? 教えてくださいよ!」と真摯に食い下がり、「ふざけてないならもっと問題だよ」とさらにビンタを食らいました。
ここで台割を深追いしたら、担当編集者の顔面が大変なことになってしまう。
「も、もう大丈夫です」とN君を制して、編集部を後にしました。

後日、大手情報誌の編集者で、お姉さん的存在のYさんに同じ質問をすると、綴じや折り、見開き/片起こしなど、本の構造と合わせて台割について、実際の本や雑誌を見せ、図解しながら基本を説明してくれました。

誰でも同人誌やzineを1人でも作れるようになった今、ネット上で便利で親切なhow toやテンプレートがたくさんあります。それだけに、自分が作ろうとしている出版物と全く関係のない編集部に入り込み、担当者がビンタされるのを見たり、レクチャーを受けた、あの空間は何だったのだろうと、遠くを見てしまいます。リモートワーク推進の今、職場でありながら部室のようだった、編集室は完全に過去のものになるのかもしれません。

後日談として、音楽・演劇欄担当のN君と私は、ダンスパフォーマンスイベントに招待され、舞台に立つことになりました。編集のみなならず、このジャンルに関しても非実力派の私たちは、本職のダンサーや俳優たちに混じって舞台に立つため、話し合いの結果、インパクト勝負に出ました。買ってきた金粉をサラダ油でといて、水着の上から全身に塗りたくり仏像のように輝きながら、N君が選曲したピコピコサウンドに合わせて、持ち味を生かしてぎこちなく踊る謎のパフォーマンスで切り抜けました。舞台からはけても、全身がベタベタの金色になっていたため、大黒などの幕を汚すな!と舞台監督に怒鳴られ、寒空の下、震えながら劇場の外の水道を使い、交代でホースのジェット水流を激しく当てて金粉を流したのでした。

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