4/n)◆◆04巻目【妖狐・神楽坂文と変な物語シリーズ】 激痛茶館 《第二章 やわやわと調査する(1ー1)》
■■ 1 ■■
――翌日、ソウル市内。
パク・ソユンは普段どおり、“ソウ”との芸名で、本業のモデルとしての撮影であったり、あるいはインフルエンサー的な活動などと――、いちおう、仕事をしていた。
なお、この“ジグソウ・プリンセス”こと、パク・ソユンの所属するSPY探偵団というのであるが、リーダーのカン・ロウンを除いて、皆、何らかの仕事をしている。
であるので、探偵団とはいったものの、モノ好きの探偵同好会やサークルに近いともいえる。
だた、各々が“異能力者”であること――、それから、この“兼業的”に世に溶け込んで調査を行うことで、有用な情報を得たりすることで、それなりの実績もあった。
なお、かつての朝鮮王朝には、不正や悪事を対内的に監視、調査する、“隠密”や“スパイ”的な活動をする部署があったようであるが……
まあ、それはさておき、そのパク・ソユンの能力はというと――、
「――ソウ? また、そんなもの見てるのかい?」
とここで、間の悪いのか、芸名でソユンを呼ぶ声がした。
休憩中なのか、市内を見渡せるダイナミックビューな部屋でパク・ソユンがコーヒーを飲みつつのところへ、仕事仲間と思しき年端の近い男と女が入ってきた。
「うわ、グッロ……。やっぱ、好きなのね? アンタ、そういうの……」
女のほうも、パク・ソユンの見ていたタブレット画面を見て言った。
「何? 二人とも」
パク・ソユンが、ゆるりと振り向いた。
その、タブレット画面には、スプラッタ・モノや猟奇モノ、拷問モノなど映画の特集だったり、見どころの動画が並んでいた。
ちょうど、バスルームに縛って、チェーン・ソーで両手足を切断しようとする場面などが映っており、“それ”を視つつも、コーヒーに茶菓子と――、パク・ソユンは淡々としてティータイムを愉しんでいた
まあ、コーヒーだから、コーヒーブレイクだろうがというツッコミは置いておき……
ちなみに、このようなパク・ソユンの猟奇モノ好きの趣味であるが、仲間うちやファンの間ではよく知られていることであり、そもそもが、“ソウ”の芸名が、SAWシリーズからとったものである。
――それで、話をパク・ソユンの異能力に戻す。
このソユンだけでなく、他のメンバーたちもそうであるが、いわゆる、某少年漫画の念能力の如く――、“思念系の異能力”を使用でき、ソユンは特に、スプラッタものに出てくる凶器や道具などを、“ある程度自在に具現化”できる能力を持っていた。
また、同時に――、いや、“こちら”の方が、調査や捜査の際の能力として、ときに重宝できる能力かもしれないが、“スプラッタ系・猟奇系の思念系異能力”の“逆能力”ともいうべきか――、そのような猟奇系の攻撃や拷問などに、“異様に高い耐久性”を発揮することができる能力を有していた。
例えば、拘束されたままチェーンソーで首を落とされそうになっても、寸でのところで耐え、具現化した麻酔と凝固剤で止血したり……、あるいは、千本近い針を飲まさせる拷問を受けようが、メスを具現化して腹から胃にかけて裂き、取り出してみせるといったような……
いずれにせよ、猟奇モノに対する興味が、この思念系の異能力・逆能力の源泉となっており、また、“例の茶会”の招待を受けても、このパク・ソユンは平然としているのだろう。
まあ、猟奇モノやグロものを視ても淡々としていられる、“ある種の鈍感な精神力”もあるのだろうが……
――それで、その異能力というのは置いておき。
むしろ、そのような、ある種のバトル系の能力というのは――、窮地のときであったり、何か、潜入したり囮的に操作するときには役に立つのかもしれぬが、基本は、“世に溶け込む中で得られる情報”である。
そうしているところ、
「――ソウ、そろそろ、配信の時間だよ~ん」
と、仕事仲間の男の、呼びかけてきた。
「おっ、けぃ~」
と、ソウこと、パク・ソユンはやわやわと準備を始める。
これからしようとするのは、ウェブ上での、DJイングの動画配信である。
モデル衣装を着こなしつつ、スタイリッシュにEDMやハードスタイルなどのダンスミュージックをDJプレイし、そこそこ人気ではあった。
高層階の、スタジオ――
その眺望をバックにするがよいのだろうが、ただ、現在は昼間である。
外は映さずに、ブラインドを落として締めきって、映像技術による投影と、オールド朝鮮様式の家具調度――、それに近代的なDJギアを組み合わせたセットで、撮影に臨まんとしていた。
なお、スタジオの後ろには――、ガラス越しにであるが、ソウのファンや視聴者たちが集まっていた。
「……」
さて、と……
パク・ソユンは、やわやわ準備しつつ思う。
モデルである自分――
“例の”、先日に“招待状”が届くまで、その活動をしつつも調べていた。
そうして自分の観察したところ、業界内や、その人間関係の範囲内で、“茶会の首謀者”と思しき、何やら怪しい者の影は、いまのところない……
まあ、同じSPY探偵団で、実業家をしているドン・ヨンファと同じく、交友関係であったり、仕事上の関係は、ここソウルを中心に広くもっており――、ときに、ヤバい人間やグレーンな会社などの情報というのは、手に入らないこともない。
実際、いままでの調査してきた案件で、そういうのはいくつも調べてきた。
中には、“いる”のである――
そうした、異常というか、変わった趣向を以って犯罪を行う人間は。
それで、今回の“招待状”というのも、そうした人間や、組織による愉快犯的なものとも思い、調べていた。
ただ、そんな自分に、“招待状”が来たということは……
何か、あるのだろうか?
自分、――パク・ソユンでない他人であれば、恐怖し、慄くような“招待状”であるのだろうが……
これが、チャンスというわけではないが、……何か、調査を進展する糸口になろうか?
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