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菜の花畑でつかまえて②〜末っ子ちゃんが帰って来た〜

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末っ子ちゃんの帰国が決まり、とりあえずの滞在先が我が家に仮決定すると、次々と多くの荷物が送り届けられる様になった。
衣類やらデスクトップのMacやら、そりゃいままで住んでいた香港を完全に引き払って帰ってくると言うのだから、荷物が多くなるのはわかっていた。それらは一旦、ガレージスペースや、まだ1人で寝ることのできない小学校3年生の下の子の部屋に格納されていった。まだ使っていない下の子用の部屋を、仮の末っ子ちゃん部屋に設定した。
送られて来る荷物の中でも、やはり自然と目に入ってしまうのが、赤ちゃんグッズの数々だ。あー、本当に子供と一緒に帰って来るのか。まだ見ぬ甥っ子を想像し(男の子だと聞いている)、正直、楽しみよりも少しの不安、恐怖に似たものを感じていた。生後数ヶ月の赤ちゃんとの共同生活。夜泣きとかすごいのかな、ミルクグッズのスペースを今のキッチンに作れるかな、生活リズムとかどうなんだろう。
自分の子供達が赤ちゃんだった頃、どうだったっけ?あー、可愛かったなー、以外はとっくに忘れてしまった。(何にもしてなかったよ、と嫁さんに今になっても突っ込まれている)
そして、家族の中でも、今はまだ唯一、今後やって来るであろう激変に気づいていないのが、飼い犬の「なの」だ。

3才の女の子

チワワとダックスフンドのミックス、チワックス。体重4キロ程の、小型犬だ。想像でしかないが、ブラックタンのダックスフンド母と、白のチワワの父の間に生まれた(と思う)。両方の遺伝子をバランスよく受け取り、耳は半分だけ、垂れている。足は細く、でも短い。
弱い犬ほどよく吠える。他の小型犬同様、なのも誰かが玄関のインターホンを押しただけで吠えまくる。家族で最も新入りのなのより、さらに新入りが増える。しかも、1人は0歳児だ。なのより大きな声で泣き喚くだろう。彼女は、その新入りに対して、どんな態度を取るのだろう。同居人や住居スペースの変化で、体調を崩してしまう犬や猫も多いと聞く。なののストレス耐性だけは、計算できない不安要素だった。

2021年7月、その日はついにやってきた。
末っ子ちゃんの帰国日である。
その日、僕と嫁さんは朝から車を走らせ、はるばる成田空港近くのホテルまで末っ子ちゃんを迎えに出かけた。
末っ子ちゃんは、前日深夜に飛行機で帰国しており、このホテルに一泊していた。有名な外資系ホテルだ。
駐車場に車を停め、ホテルのロビーに向かう。ホテルの駐車場はガラガラ。コロナの影響で、空港利用客が激減しているからに違いない。
地下の駐車場から、一階ロビーへと続くスロープを歩いていると、聞き覚えのある甲高い声が響いて来た。末っ子ちゃんの声だ。誰かと話している様子。電話しているのかな?

声の方に向かって行くと、やはりその主はビビットなブルーのワンピースを着た末っ子ちゃんだった。僕たちに気付き、電話で話しながら大きく手を振ってくる。
僕と嫁さんは、末っ子ちゃんの周りにある多くの荷物に目を奪われた。カート2台に山積みだ。
そして何より、一台のベビーカーと、そこに乗る赤ちゃん!初めて見る甥っ子は、近づくと一切打算のない笑顔をこちらに向けてきた。自然と僕と嫁さんの頬も緩む。全体的に丸みを帯びたそのフォルムは、末っ子ちゃんに似ている。紛れもなく末っ子ちゃんの息子であることがわかる。

「にゃー」
ん?猫?
気のせいかと思ったが、もう一度はっきりと「にゃーお」と聞こえた。
声の主の出所は、どうやら末っ子ちゃんの荷物を乗せたカートからの様だった。
暑い日だった。でも僕はその時、はっきりと背筋にぞくっと寒気を感じたことを覚えている。

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