健太(マエケン)ありがとう!①

先日、多くの方から、ミネソタ・ツインズの前田健太投手が自身の人気YouTube「マエケンチャンネル」でなにやら私の事を話しているとの連絡をもらいました。すぐに見てみると、「これをやってプロになれた!必見トレーニング」というタイトルで、その内容に涙が出そうなくらい感激しました。コーチ冥利に尽きるのと同時に、コーチの発する言葉の重さを改めて実感しました。

ここから先を読んで頂く前に、まずはぜひYouTubeマエケンチャンネルの「これでプロになれた!必見トレーニング」というタイトルの映像をご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=2b0Ov4n7hO4&t=328s

以前からお伝えさせて頂いているように、2001年に大阪堺市の阪堺病院内にスポーツ医学とスポーツ科学が一体化したSCAという施設を設立主宰させてもらいました。設立して間もなく、PL学園野球部とチーム契約をすることになりました。しかし、私はSCAに常駐しているわけではなかったので、大まかなプラン、プログラムは私が作り、基本SCAからコーチやトレーナーや理学療法士をグランドに派遣していました。そして、ケガをした場合や、リハビリ、ミニキャンプや調整時には、選手たちがSCAにやって来ます。その時に私と健太は初めて出会いました。

実のところ、私は彼の存在をその前の年、中学3年生の時から知っていました。当時、忠岡ボーイズに「マエダ」という凄い投手がいるという評判を聞いていたからです。評判に違わず、彼はPL学園に進み、一年の夏に早くも甲子園のマウンドに立ちました。

甲子園の好投で、彼は桑田二世と言われ、全国に名前が知れ渡りました。この時の彼のピッチングを見たのですが、そのあまりにも美しいフォームに、思わず見入ったものです。特に踏み込み脚(左)の股関節の使い方が非常に柔らかく上手く使えていることが印象的でした。この時に既に私は、彼が「プロに行ける」だけではなく、上手く育ってくれれば「プロで一流になれる!」と確信していました。

そんな彼が、一年から公式戦に投げているということで身体の負担度を調べるため、メディカルチェックとトレーニングメニュー作りのために何回もSCAに来ることになったのです。SCAのトレーナーが健太を連れて来てくれ、挨拶をしてくれたことは鮮明に覚えています。

そこで見せる彼のトレーニングに対する姿勢は真剣そのもので、また今もそうですが、どんな辛いトレーニングも笑顔を絶やさないのです。そんな姿に私は感心し、心が動かせられ、甲子園で見た投球で私なりに感じた事を伝えたのです。

では、その時健太に何を感じたかという事を、少し長くなりますがお話させて頂きます。

投手は成長と共にボールは速くなっていきます。これは、「より良いフォーム」になってくる、そして、「より強くしなやかな身体」になってくる事でなされます。

みなさんいきなりですが、この二つの写真を見てください。

A↓

画像1

B↓

画像2

これはボールリリースの瞬間を表しています。ボールを放つ時、Aのようにボールの下側にスピンをかけてリリースするのか?Bのように、上から下方向へ指を曲げてリリースするのか?どちらだと思いますか?

答えはBの指を曲げてです。20年くらい前なら、ほとんどの人がAと答えていましたが、今は多くの人にこのことは知られていると思います。このように実際にボールは、指が曲がったままリリースされるのですが、そのまま選手に伝えると、特に年齢層が低くなるほど、指を曲げようとする余り、胸が張れない腕がしなれない、アウトインの腕の振りになってしまう選手が多く現れます。

実際には指を曲げていても、イメージは昔から言われているように「ボールの下側にスピンをかけよう」と意識することで「最大外旋」つまり「胸の張り」が作れるのです。コーチングの難しいところは、コーチとして「知っていなければいけないこと」が、「全て選手に伝えなければならないとは限らない」ということです。その判断力もコーチの手腕となります。

話が脱線してしまいましたが、戻しましょう。ボールが速くなる、ということはすなわち、腕の振りが速くなる、ということ。腕の振りが速くなるほど、ボールには遠心力がかかり、ボールは外へ外へと行こうとします。オーバーハンドならボールは上へ上へと行こうとするのです。

この時、人差し指と中指を曲げる力で、ボールが上へ行こうとするのを防ぐのです。つまり、指の力が弱いと速いボールは高めに行ってしまいます。またこの時しっかり指でボールを押さえる事で、回転数も大幅に増え、打者から見ると、「思ったより落ちてこない」つまり、ホップ成分の大きい伸びのあるボール(回転軸も重要)が投げれるようになります。

少年の投手が成長にしたがって、より良いフォームを構築し、強くしなやかな身体へと成長すると誰しもボール速度が上がっていきます。しかし、同じようにボールが速くなってきたけど、「勝てる投手」と「勝てない投手」に分かれてきます。そこには、メンタル面も含めて多くの理由があるのですが、その中の一つに、「投手の指力」が挙げられます。

指の力が弱いと、速いボールを投げられるのに、その速いボールが高めのボール球にしかならなくなります。その結果、腕の振りを弱めスピードを落とし、遠心力を弱めなければストライクゾーンにボールが投げれないという事になってしまいます。

全力で一番速いボールを投げると四球を連発し、スピードを押さえてボールを置きに行くと痛打となるのです。このように仮に均等にフォームとフィジカルの成長によってボールが速くなってきたとしても、「勝てる投手」は、その速くなったボールをストライクゾーンに投げられることができ、「勝てない投手」は、ベストボールをストライクゾーンに投げられる率がかなり低いのです。いかに投手にとって、成長と共に大きくなる遠心力に勝つために「指力が重要」であるかを理解して頂けたと思います。

また、投手にとって一番速い球が、投げた瞬間明らかに高めのボールと分かる場合、指力の問題もありますが、身体の使い方か、身体を上手く使うための身体部位に問題があるケースがほとんどです。その場合は指力ではない、他の原因を探していきます。

しかし、健太の場合は、当時からとてつもなくキレのあるボールをストライクゾーンに投げ込めます。身体の使い方も高校一年生にして完璧に近づいていました。しかし、そんな彼でもYouTubeの中で言っていたように低めに関しては、少しスピードと回転数が落ちてしまうようでした。そこで私は指力を鍛える事で更に良くなると確信したのです。

PL学園野球部の全体のトレーニングメニューを私は把握しています。野球は全体メニューも大事ですが、武器を伸ばす、または苦手の克服や一定の側面強化に関しては個人メニューが重要です。幸いにして当時のPLはその強さは「自主練習にあり」と言われたほどなので、健太がそこに「指力」強化に費やすことを提案し、彼が忠実に実践してくれました。

健太はこのYouTubeの冒頭でちゃんとストーリーがあると言っていましたが、実はもう一つ彼と私どもSCAとの間にはストーリーがあります。「えっ、それも?」と思うほど健太特有の有名な「アレ」の事です。それは次回にお伝えさせて頂きます。

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