HOD ZINE2 全文感想(ネタバレあり)

エビハラ「狩場」

yukieさんの自白で完全に落ちてたと思ったので、(信頼できない)語り手の種明かしでヒョエ~となりました。上手い。読書会はマルチの狩場でもあり吸血鬼の狩場でもあったってことか…。確かに現実の読書会に存在し得るダークサイドですね。

本田臨「エン/シン・パシー」

真実を知らないアサキとトラの視点から入っていって最終的に行灯=袴田の視点で真相が明らかになるというのが技巧的で面白いと思いました。読書会を舞台にしたひとつのミステリとも読めますね。自分も読書会でべらべら一方的に喋らないように気をつけます…。

阿部蒼星「宝石」

視覚的な比喩が美しく、流麗なお芝居みたいに場面が目の前で展開していくようでした。「大事なのは、何をしているときが幸せか、知っているかどうかじゃない?」という台詞にはハッとさせられますね。何かのための読書(主人公にとっては創作)になっていないか、それ自体を楽しみたいものです。

河原こいし「非実在読書会」

書棚の裏の隠し部屋というロマン(!)にテンション上がりました。読書会への合言葉が「村上春樹の『限りなく透明に近いブルー』」なのもユーモラスかつオシャレで好きです。ちょっと違うかもしれないですが、子どもの頃に読んだのにタイトルが思い出せない本てありますよね。非実在読書会に行けばあの本にも再会できるのかもしれません。

けいりん「穴掘りのバラッド」

引き込まれて夢中で読みました。自分が幼い頃に図書館に入ったときに感じたであろう、昂揚感の入り混じる畏れの感情を思い出しました。ここからという所でひとまずお終いになっているので、ぜひ続きを読んでみたいです。サイトは文字を覚え学問を修め、支配階級に昇り詰めるのでしょうか?そしてシャイナーの計画の意図とは?展開が楽しみです。

井花海月「一コマ」

とても短いのに不思議な余韻を残す掌編でした。個人的にボルヘスっぽさを感じます。みんな他人の人生なんかに興味は無い、でもやはり自分の人生は自分の人生であり、それを書き記すこと自体に意味があるというところに救いを感じました。

鐘白「春の読書会」

春の暖かくも溌剌とした、浮足立つような空気が素敵だったので、最後の展開は面白く読んだのですが「ああそういうことか…」と突然現実に引き戻されたような感じがしました。しかし最後に桜木さんの発したたった一つの言葉で小説全体が明るい色彩に彩られ、ほろ苦さを含みつつも穏やかな読み味になっている点がとても巧みです。

繭子「さくらの秘め事」

主人公が緊張しつつ発言しているときに、上手に合いの手を入れてくれる鈴木さんみたいな方が居ると本当にホッとしますね。安心できるサークルの中で主人公の心がほぐれ、少しずつ自分らしさを表現できるようになる過程が素敵だと思いました。ブコウスキーを読んでみたくなりました。

安田勇「読書会の秘密――読書会のダークサイドについての体験恐るべき中年問題児との激闘!!」

タイトルですでにちょっと笑ってしまいました。コミュニケーションの難しい読書会参加者は/に対してどうすれば良いのか?という問題は重要ですね(自分も気をつけたい…)。ただそのような人たちを一方的に糾弾するのではなく、最後に読書会になじめない人にメッセージを送っているところに安田さんの優しさを感じました。

タチマ「人づきあいの哲学」

拙文です。普段は大学で哲学の研究をしているのですが、哲学をエンタメとして楽しめるような文章が書けないかという初めての試みです。ご笑覧下さい。

はままつ君「作品と向き合うこと、人と向き合うこと」

大トリ。HODに参加する中で、ファシリを行うはままつ君さんとは何度も顔(耳?)を合わせてきました。しかし彼はとても(驚くほど)聞き上手である反面、ほとんど自分のことを語らないため、その人となりは未だに謎に包まれています。でもこの文章を読むことであなたのことを少しでも知ることができて、嬉しいです。これもまた人の作品化の一例かもしれませんね。

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