TAWの取り組みは引退競走馬に関する諸課題の解決にならない

JRA、日本中央競馬会が4月16日に公表した引退競走馬に関する諸課題や馬の福祉充実に取り組む専門的団体(一般財団法人 Thoroughbred Aftercare and Welfare)の設立。

これを「良いこと」と捉えている人が多いと思う。ただ、僕は「無駄なこと」だと思っている。その理由を説明したい。

まず、JRAは「引退競走馬に関する検討委員会」というのを、2017年に立ち上げていて、今回の専門的団体を立ち上げるに至った。

よくありがちな批判で、JRAはなにもしていない・儲かっているのだからやるべきだ。とする意見もあると承知しているが、それは的はずれな指摘だし、その場合は地方競馬を管轄するNARの名前が出てこない以上、競馬について興味はないけれどちょっと噛んで批判してみよう。とする人が多いと思っているので、そういう人には今回の「やってること」が良いように映ると思っている。僕は無駄だと思っているけれど。

引退競走馬に関する諸課題について、日本では、2017年に「引退競走馬に関する検討委員会」を立ち上げ、競馬サークル全体で問題意識を共有し、その状況の改善等に向けて継続的・安定的な取り組みを行ってまいりました。今回は、この検討委員会の基本方針等を踏まえ、中央競馬・地方競馬、馬主、生産者や厩舎関係者など競馬関係者が協力して「一般財団法人 Thoroughbred Aftercare and Welfare」(略称 TAW)を設立し、引退競走馬に関する取り組みを今後も着実に推し進めるとともに、併せて、馬のウェルフェアに関する理解促進などに取り組むことといたします。引き続き皆さまのご理解のほど、よろしくお願いいたします。

日刊スポーツ 記事 より

これを「単体で」切り取れば、良いことかもしれない。ただ、背景をどう思うか?が問題だと僕は考えている。

この記事にはこう書かれていた。

「宇都宮市の日本中央競馬会(JRA)施設内に馬の待機場を設ける。1、2カ月ほど約30頭を無償で預かり、乗馬用の再トレーニングも受けさせる。」

朝日新聞 記事 より

無償で預かり、乗馬用の再トレーニングを受けさせるとのこと。
ここで再トレーニングについて、JRA日高育成牧場が公開している「馬の資料室」というブログで「引退競走馬のリトレーニングについて」という記事が2021年に公開されているので見ていきたい。
このなかで、リトレーニングプログラムの流れはステップ1~3までがあり、それぞれ所要期間が記載されている。
ステップ1、2は所要期間が2週間から4週間
ステップ3の所要期間は4週間から8週間となっている。

これでは、たとえ無償で預かったとしても出来ることは限られているのではないか。
もちろん馬だから、それぞれ違って乗馬に高い適性を見せる馬もいれば、そうでない馬もいるはずだ。だからこそ、期間にとらわれないフレキシブルな対応を取らなければならないのに、最初から期限が1、2ヶ月とは短すぎる上に、リトレーニングプログラムも完璧に出来るとは思えない。
公開している、リトレーニングプログラムを参考にすれば最低でもステップ1.2の2週間×2の4週間とステップ3の4週間で、合わせて8週間が必要で、1ヶ月では終わらない。だいたい2ヶ月かかる。しかもこれは短い例で、長い例なら4週間×2に8週間で16週間。約4ヶ月かかる計算になる。
要するに、この取り組みで乗馬へのリトレーニングが完璧に出来るという訳じゃない。だから、朝日新聞の記事にあった「時間稼ぎ」というのはそれだからなのか?と思ったりする。

引退後に乗用や繁殖用として引き取られる馬もいるが、最終的に食肉用になる馬は「相当数いる」(農水省)という。このため、法人が受け入れ先が見つかるまでの「時間稼ぎ」をする。

朝日新聞 記事 より

無償で預かるのだから、ある程度下積みだけ出来たらいいです。あとはこっちでどうにかします。って乗馬クラブに馬を引き渡す取り組みならば、それは本当に「必要なのか?」という話と「これがJRAの検討委員会が考えて出した結論」なのか?という話になる。
カネを取るのか?取らないのか?無償で預かり、引き渡すからこそ何かしらの条件を付けると推測しているが、それが履行されるかどうかは分からない。結局はまだ何も詳しくは発表されていないのだ。

だから、これで「JRAもやっているね、引退競走馬支援」となるのも、僕にしてみれば訳が分からない。

農林水産省が行う畜産物流通調査によると、日本では年間で約1万頭の馬が屠畜される。
海外から食肉用に生体輸入される馬は近年約3000頭で横ばい。日本で生産されている、サラブレッド以外の馬は重種や在来種等の全てを含めて年間で約3000頭。
嘘がない数字を積み重ねて考えていけば、ある程度まとまった数の「サラブレッド」が畜産物として屠畜されているのは分かってしまうこと。
この現実をマスキングしたい理由もよく分かるが、引退競走馬支援というならば現実もしっかり見て語るべきではないだろうか。

引退競走馬に関する諸課題はいろいろあると思うけれど、誰しもが知りたいと思うのは「引退したサラブレッドがどうなっているか、追えないこと」だと思っている。
そのなかで、屠畜される馬もいる。でもそれは知られない。トレーサビリティのシステムもないから分からない。
これが課題の1つで解決策は情報公開だと思うが、それをすれば競馬否定派からの攻撃材料となってしまう。雁字搦めとなっている現状は痛いほど把握しているが、そんな中でも僕は問いたい。

サラブレッドが家畜となって、屠畜されて肉になっているのは現実だ。食肉としてもそうだし、それ以外にもペットフード等として需要がある。だから日本で年間約1万頭以上の馬が屠畜されて肉となっている。そしてそれ以上に馬肉の輸入もしている。
そんな現実があるということは、畜産業界にしてみれば引退競走馬が必要なはず。こういう人たちの声は大きくないけれど、間違いなくあるはずだ。

僕が思うことは「引退競走馬支援といって生かすことを考えるけど、じゃあ肉が欲しいという需要の問題はどうするの?」と。生かしてカネが得られるならいいけれど、出ていくばっかりが現実なのだから、どこかで限界が来る。それを考えず「生かしましょう」というのは、矛盾だと思っている。
また、現役時代に成績を残した馬やそうでない馬もいるわけで、その成績に応じた線引きをするのかしないのか。
引退競走馬支援は、肥育だったり馬肉を食べることを悪とするか、悪としないか?

ここをハッキリと教えて欲しい。
まずはそこから始めよう。

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