サラブレッドの生産頭数について

今、引退競走馬の話をしたときに必ずと言っていいほど言われることがある。
生産頭数が多すぎるから減らせ」と。

何を基準に「多すぎる」と判断しているのか?は分からない。分からないからこそ考えてみたい。
近頃は引退競走馬に関することがニュースで頻繁に取り上げられるけれど、実際のところを深く知ろうとしてない報道ばっかりで、団体にインタビューして都合の良いコメントを引き出して団体の宣伝になるようなことしか言わない。それなら、チラッと見た程度の人が、お気持ち表明のコメントで「なぜ馬主は責任を取らないんだ!もっと馬に対して責任を取れ!支援をしろ!生産頭数を減らせ!」と言うに決まってる。
深く知ろうとしないんだから、そうなるに決まってる。なら、どうすればいいのか?
そもそもサラブレッドの生産において「適切な生産頭数」と呼べるものは存在するのか?その他諸々をこの記事で考えていきたいと思う。


2023年 サラブレッド生産頭数

2023年の日本におけるサラブレッド・サラブレッド系種の生産頭数は7796頭となっていて、8年連続で生産頭数は増加している。
年間約1万2000頭ほど生産をしていた1993年頃から、サラブレッドの生産頭数は減少傾向にあったものの2012年に6800頭台で底を打ってからは増加傾向にあるというのが統計で出ている。
生き物だから当たり前の話だが、種付けを行えば必ず受胎する訳でもないし、受胎しても流産や死産で無事に生まれてこないケースもあるし、時期的な問題で種付けを行わないケースもある。だから、7796頭が生まれてきた訳だがそれ以上に繁殖牝馬がいる。
2022年の12月1日で登録されていた繁殖牝馬の頭数は1万994頭とサラブレッドの生産頭数等各種統計に記載されている。

生産頭数は「多い」のか?

ここで最初の問題点に立ち戻る。
果たして、生産頭数が多いのか?

今年行われたサマーセールの結果を見てみよう。1187頭が上場され、977頭が売却。売却率は82.3%で市場記録更新となった。
今から20年前、2004年に行われたサマーセールの結果を見てみると、1031頭が上場され294頭が売却。売却率は28.5%だ。

もちろん、庭先取引を重視する流れから時代の変化・市場購買賞や各馬主会の購入助成制度などがあり、昔の数字と今の数字を単純に数字だけで比較することは間違っているかもしれない。
ただ言えるのは、馬を欲しがる購買希望者が増えているのは言うまでもないことで、昔は馬が売れないと言われたが、今は買うのが難しいと言われるようになっている。
買うのが難しいということは、生産頭数が少ないということでもあるはずで、だから生産頭数が多いと僕は思わないし、多いなら欲しがる人は減って売却率が市場記録を更新することは無いと考える。
サラブレッド生産における適切な生産頭数体制というのは存在しないからこそ、市場の動向が全てであると僕は認識している。
要するに、今の生産頭数が多いと言い切れる材料は無いというのが結論だ。

なぜ「生産頭数を減らせ」と言うのか?

生産頭数が多いと言い切れる根拠はどこにもないし、生産頭数が年々増加していっているけれど相場では市場記録を更新するほどの売却率を記録しているということは、少なくとも「馬が余る」という状況にはなりにくい。
もちろん市場だから、単体で見れば人気がない馬・人気がある馬と分けることも出来るが全体で見たときの数字として、売れない馬の絶対数は昔と比べれば今の方が少ない。
これを分かっていて「生産頭数を減らせ」と言うならば、サラブレッド生産者を廃業させる為の保証を出すべきだろう。繁殖牝馬を1頭処分すれば50万円出します。その代わりに転作してくださいねと。
生産頭数を減らせと言う輩は、市場の状況を知らずにカネを出すことも絶対にやらないから、適当なことばっかり言っている。
本来なら「黙れよ」の一言で片付けられるのだが、今の時代とメディア報道のやり方で大多数は誤解をしているからこんな輩の意見が正当なように聞こえてしまう。

メディアが作り出した誤解

引退競走馬についてメディアが報道する際には上っ面しか見ない。そして団体の話しか聞かない。
全ての物事には表があれば裏がある。
この記事を作ろうと思ったのは、このネットニュースを見たから。

サラブリトレーニングを取材しているが、サラブリトレーニングの表側だけしか見れていない。
裏側で言えば、指摘している議員もいる。
ネットオークションで売却と言うが、買い取り手は多くなくて主取りになることも多々ある。そしていちばん大きいのは、肥育業者が馬を買う金額とサラブリトレーニングが売る金額が殆ど変わらないこと。
要するに、リトレーニングされた馬と肉馬としての価値は殆ど変わらない。
乗馬としてでもホースセラピーでもなんでも、使える馬の価値を上げなければ肥育に回すのが手っ取り早いという経済になっている。これを変えない限り、引退競走馬の諸課題は解決しない。

まとめ

「引退競走馬について関心を持って貰いたい」なんて言うけれど、関心を持って触れるニュースに偽りがある現状。
そして、引退競走馬に関する団体は自分たちが引退競走馬を繋養しているからこその目線で物事を発信するからこそ、その裏側にある肥育を直接は否定しないものの、情報を受け取る側の人たちにしてみれば、否定になっているという現実があると思っている。
だからこそ、両者ともに議論すべきだが取り上げられるのは引退競走馬を繋養して生かそうとしている団体だけ。
畜産としての馬もいるのに、そこにスポットライトを当てずに生かしましょう。それが良いです。という流れは、大きな誤解を生むようにしか思えないし、回り回って大きなしっぺ返しを食らうと思っている。

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