Xに画像投稿された雑誌「選択」の記事について考察と調査


先日ね、X (旧Twitter)で島田洋一(Shimada Yoichi)@ProfShimada という方が雑誌記事を画像投稿してたのを見たんですよ。

いろいろ書かれていたんですが、その雑誌記事の文面の中で特に私が気になったのは外務省の補助金について。
「この補助金を巡り、六年前には受注団体での七千万円横領疑惑が報じられ、使途が不透明。」という一文。

なんのこっちゃ?

分解してみましょう。

六年前:
写真は今年(2023年)の記事のようなので、2017年ですね。

受注団体:
これは外務省のウェブサイトで調べれば絞り込めるでしょう。

七千万円横領疑惑が報じられ:
どこかの報道機関が記事を出しているはずですね。

使途が不透明:
この一言が厄介ですね。

「補助金の使途が不透明」かと思ったんですが、件の補助金事業は事後評価や事業レビューを実施しているのでその辺の会社より透明性は高いです。
ということは「横領疑惑のある七千万円の使途が不透明」でしょうかね。
まあ、どっちなのかは材料集めてから考えましょう。

まずは「2017年に七千万円横領疑惑の報じられた外務省補助金受注団体」です。

これは「2017年 七千万円横領疑惑 外務省 補助金」あたりで検索して、それっぽい記事を探してみましょう。

すぐ見つかりました。多分これですね。時期も金額も一致しています。
株式会社文藝春秋に対する訴訟提起について

そして上記の「言論NPO」は外務省の「外交・安全保障調査研究事業費補助金」公募に企画を出して採択された実績があります。

具体的には

2013年:1事業
 ・『言論』の力による『強いパブリック・ディプロマシー』(2年事業)

2015年:1事業
・ 地球規模課題の解決に向けた日本の言論の力、発信力の向上と、日本を拠点とした世界のシンクタンクとの積極協議(2年事業)

2017年:2事業
・地球規模課題の解決に向けた日本の提言力の強化と,日本を発信拠点とする世界10ヶ国トップシンクタンク会議による21世紀の新しい世界秩序の原則の提起(3年事業)
・北東アジアに平和秩序を構築するための日中両国への平和原則提案と日米中韓の多国間協議メカニズムの創設(3年事業)

ところが、2017年に採択された上記の2事業を終えて以降は、言論NPOの企画が採択されなくなってます。
決して外務省の補助金事業が打ち切られたわけではなく、2020年に11事業、2021年に1事業、2022年に1事業、2023年に13事業が採択されており、言論NPOとしても公募に企画を出して採択されれば補助金が得られたわけです。でも、採択ゼロ。

さてここで、改めて2つ疑問が浮かびます。
 1.「七千万円横領疑惑」ってなんだったの?
 2.外務省の補助金に採択されない理由があるの?


さらに調べてみました。

1.「七千万円横領疑惑」ってなんだったの?

 前述の言論NPOウェブサイトで「訴訟提起」って書いてあったじゃないですか。ってことは、判決文が出てるかもしれない。探してみましょう。
判決文ってのは、固有名詞を伏せて公表されていたりするので、固有名詞を使わずに調べます。まぁ言論NPOさんのウェブサイトにヒントはいっぱいありますよね。

「謝罪広告 外務省 横領 代表理事」

ありました。複数ひっかるようですが、内容的に多分これです。令和元年12月。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/136/089136_hanrei.pdf

えーっと…何があったか、知りたいのは双方の主張より裁判官の客観的な判断ですかね。10ページ目の「第3 争点に対する判断 15 1 認定事実」あたりが気になります。

要約すると(正しくはリンク先を見てね)


・NPOの代表理事は個人事業主としての屋号を持っていた。
・NPOは代表理事へ百万円の給与を払っていた。
・NPOは個人事業主としての代表理事に仕事を依頼し、報酬を払っていた。
・支払われた報酬は給与とは別に約10年間で6000万円弱。
・NPOは知事への報告に役員との取引はないと記載した。(※1)
・雑誌記者は理事に「外務省の補助金とNPOの運営費が仕分けされていないのではないか」などの質問をした。(※2)
・横領したというのは名誉棄損であるが、雑誌は目を引く記事を書くというのは周知であるし、実際のところ違反もしている。それに記事の最後に理事のコメントも載せている。
・謝罪広告は不要、雑誌社はNPO代表理事に慰謝料100万円と弁護士費用10万円を払え。

 ※1:特定非営利活動促進法違反
 
※2:「質問」の事実は認定したが「仕分けされていない」という事実認定はしていない。でもこういう記事出されると外務省にあれこれ言う人は絶対に出てくる


長いですよねごめんね。
つまり、七千万円でも横領でもないし補助金とは直接関係ないが、NPOは個人事業主としての代表理事に仕事を発注して報酬を払い、それを知事への報告では記載をしなかった、ということかな。


2.外務省の補助金に採択されない理由があるの?

これも推測でしかないので「多分」になっちゃうのですが。
言論NPOが採択されていた2017年度と、採択されなくなった2020年度を比べると、「評価要綱」が変わってるんですよね。(1 外交・安全保障調査研究事業費補助金 評価要綱

具体的には、それまで総合評価のみが公表されていました。
(例:https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/pp/page22_002060.html
C, B, A-, A, A+ の5段階。Aで期待通り、A+で期待以上だそうです。

それが2020年度事業の中間評価以降、9~15項目の「着目点」の評価を確定し、公表することになりました。(例:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100540259.pdf

その「着目点」の最後の2つがこんな項目になってます。
・補助金は効果的・効率的に使用されているか。
・補助金の適正な執行・管理のために十分な体制がとられたか(管理者による予算全体の適正配分・管理、支出の適正性を判断する担当者と実際の支出を承認する担当者の区分等)。

当たり前のことを書いてあるようですが、さっきの「判決」が令和元年12月=2019年12月だったことを踏まえると、ちょっと味わい深いですね?
私がこの公募に企画を出す立場だったら「おや、まさかあいつらのせいで書類が増えた?」とか思っちゃいます。もちろん偶然かもしれないですが。

さて、評価要綱が変わったという告知があったのはあくまで採択後です。
採択前の公募を見てみます。

2019年度の公募での審査基準
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000224387.pdf

2020年度の公募での審査基準
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000558232.pdf

よく見ると2020年度では、「審査項目3:事業実施計画・体制の適切性」の4つ目に、2019年度にはなかった一文が追加されています。

2019年度
●経費積算が事業内容に対して妥当か。

2020年度
●経費積算が事業内容に対して妥当か。補助金の適正な執行・管理のために十分な体制がとられているか

まるで2019年度以前には「補助金の適正な執行・管理のために十分な体制」に疑念がある団体の企画を通しちゃったかのようですね?
あるいは、そういう突っ込みが上の方か横の方から入ってしまい、「もちろん違います!」と示すために、なんらかの文章と手続きの追加が必要だったか。

コレ、ぶっちゃけ外務省も応募側も担当者がかわいそうな状況に陥ったのでは?
以上が、ざっくりとした経緯でした。

結論として言えることがあるとすれば、
少なくとも2020年度以降の「外交・安全保障関係調査研究事業費補助金」については一段厳しい基準で運用されてますね、ということかな…。

以下とても余談。

ところで雑誌「選択」。こういう雑誌です(https://www.sentaku.co.jp/)。選択出版株式会社が発行している会員制月刊誌で、年間13,200円払うと毎月届くようになります。ほとんどの方はご存じないかと思いますが、私はちょっとだけ過去に調べたことがあります。当時は読者層が謎だなと思っていたのですが、なるほど、こういう方が購読されているんですね。

この選択出版さんね、過去に「選択エージェンシー」という関連会社を持っていました。
ここが過去に贈賄事件を起こし、平成16年の衆議院「決算行政監視委員会」で取り上げられたことがあります。
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigirokua.nsf/html/kaigirokua/005816120041117002.htm

抜粋
“これは、選択エージェンシーを贈賄側として、社保庁石川社会保険事務局保険課長の森隆行氏が収賄側であったというもの。石川県内のテレビCMの、これは年金納付を促すものであったわけでありますけれども、発注に際して現金を受け取り、見返りに仕事を発注していた。これは、十月二十七日に、森さんの有罪判決が一審でおりております。懲役三年、執行猶予四年、追徴金四百六十万円という内容であります。”

“選択エージェンシーからは、例えば、こういった事件化したこと以外にも、自民党の元秘書という方々に対して企画料という形で現金が渡っていた。そういったこともすべてそういう契約金額の中に含まれていた。監修料であったりあるいは自民党元秘書の方々に対する企画料であったり、そういったことの中で少しずつ少しずつ保険料がむだ遣いをされてきたり還流をしていたりという実態があるということを、国民がそこに怒っているということを改めてこの決算行政監視委員会でも指摘をしておきたいと思います。”

ま、あくまで2004年、20年も過去のこと。今は反省し、このような事件を起こさない体制にはなっていると思いたいです。

ついでに最近のこれも載せておきます。

「「選択」に賠償命令、二審も名誉毀損認定 本社勝訴」日本経済新聞社

文芸春秋もそうでしたけど、雑誌に名誉棄損訴訟はつきものなんですね(白目)

いったんここまで。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?