寿司の味ってうすい

トンネルを通るたびに自動でライトをつける新車の真っ赤なミニバンを運転して、ほとんど一本の高速道路を走り、古い港町に向かった。速度制限70キロのフリーウェイ。景色はずっと緑の中。そんなの一般道とたいして変わらないけど、オービスがこわいから100キロとか出せない。助手席にはスーパーの店員と見間違えるようなオレンジ色のポロシャツを着た親方。ゴマをするジェスチャーまでしたのに、ダイエット中だから、と言って先輩は食事に行くのを拒んだ。

「前に話してたじゃないですか。食べても痩せるってやつ」
「チートデイはまだかな」
「ヘン、そうですか」

数日前はあんなに焼肉を食べて、焼酎のロック割りを5杯も飲んだくせに。彼女は一口で酔って終始ヘラヘラしていた。寿司がだめならガリでも食ってろ。でも別に親方と二人きりでも居心地はわるくならない。留萌で降りたあと、スーパーの駐車場に車を停め、寿司屋に入った。「これがええやん」と親方が20貫のセットをすすめてきた。「こんなに食べられますかね?」と訊いたら「食べれるやろ」と言ったのに、テーブルに出てくると「君、こんなに食べられるの?」と言ってきたので「は?食べられますけど?」と返しながら、内心、不安だったから勢いよく食べようと思い、箸を止めずにしていたら余裕で食べきった。「テレビでもよくやってるよな、華奢な女の子がたくさん食べて」20貫レベルでそんなこと言わないでほしい。ていうか寿司の味ってうすいし。ホッキもシャコもホタテもさほど変わらない気がするし、正直なところ、数日前にテレビでやよい軒のニュースをやっているのを見てから、ずっと唐揚げ定食が食べたい。濃い味とか塩味に焦がれている。だって22才だもの。

いろいろ話されても文字に起こそうとするとたいがい忘れているけど、「人は集めるんやない、集まるんや」と親方が言ったとき、どうだ、みたいな顔をしたのでウケた。店を出るとき、レジには数字が5桁も並んでいた。親方が領収書をもらうのを断ってくれてよかった。そんなもの誰にも見られたくない。


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