手に土塊を

ただ歩いているだけで「やっぱり歩き方からして若いわ」と言われる。元気いっぱいに見えるらしい。そういうときには「え?ンフフ」と答える。おばさんたちにバイタリティをほめられる日々。笑っていることについて何か言われるといつもきまりが悪くなるし、「は?笑ってませんけど?」みたいな気分になるけど、たしかに自分はおだやかな見かけの上で物申そうという弱さのもとでしか生きられない。でも「100万ドルの笑顔だね」っていうのはさすがに身に余りすぎるから言葉の選択どうにかしてほしい。

とにかく、自信なんてミリほどもないけど、顔色とかに関してはそこそこ見栄えがいいとみた。

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昨日、ビニールハウスで一人で作業をしていた。それについて、「ベテランでもないのに一人きりであの長いハウスの誘引をさせて、それを考えたら腹が立って、興奮して、眠れんくなってずっと起きてたわ」と佐藤さんが言う。アハハ、やさしいんですねと答えながら、昨日の夜はビールで酔いつぶれて寝落ちしていたなと思っていた。それに、本当はハウスの中に誰もいないのをいいことに大滝詠一のアルバムをかけて楽しんでいたから、むだに睡眠の質を落とさせて申し訳なかったけど、そのやさしさにはちょっと心を打たれた。「去年、研修で来たときからかわいい子だなと思ってたんだわ。こういう子が入ってくれたらいいなと思って、そしたら来てくれたでしょ」「アハハ」だいたいの場合、アハハとンフフでかわいいは作れる。つまり語彙力がない。

関口さんはマスクもヤッケも長靴も髪も赤で、まるで緊急レベルの太陽の塔みたいでこわいけど、わたしが長靴に入った土を落としていたらすぐに真っ赤な足抜きを持ってきてくれた。そのまま長靴につけておくといいよと言うからもうワンシーズン外せないな、と思いつつ数時間後に取ったので社会的に殺されてもしょうがない。親方の奥さんは自転車のカゴに缶ビールを入れておいてくれた。和田さんは土塊とか投げてくるけどいまだに結婚相手を探してくれようとするしペットボトルホルダーをくれるしハッカ油もふりかけてくれる。っていうか今日だれがハッカ油かけてくれてるのか気にしなかったほど誰もがやさしい。みんな手にはそろって土塊を持っているけど、その中に何があるのか、どうやって投げてくるのかっていうのはこっちの態度にかかっている。うまくまとめました。チャンチャン。

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