シーフードマウンテン

仕事おわり、軽トラの助手席に先輩をのせて、すこし遠い町の喫茶店に行った。父がレターパックで送ってきたお金でおごるつもりだった。彼女はロックの焼酎、わたしはレモネード。ふたりで分け合おうと山海釜飯を注文したら、ホタテもカニも入っていない山菜釜飯が出てきた。言葉が似ているから無理もないし、今まで間違えなかったことが奇跡だと思う。「シーフードマウンテンとかにしたらぜったいに聞き間違えないですよね」と先輩に言ってみたけど反応はいまいちだった。それ食べていいですから、と奥さんは言い、もう一度釜飯を作ってきてくれた。それを待っていると、先輩がとつぜん農園を辞めると言い出した。こっちが誘った食事の場で切り出すっていう魂胆がウケる。どうしてですかと訊くと、親方が苦手だから、実家の居心地がいいから、新しく飼いはじめた犬が自分になついてかわいいから、だという。犬に負けた。足元が崩れたので泣きたかった。

「心の支えがなくなるじゃないですか」
「思ってたより懐かれてた?」

そうじゃないと思うけど。わからないけど。ミニチュアダックスフンドに完敗。やってられるか。申し訳ないから食事代をおごる、と彼女は言った。なんとなくずうずうしさを感じなかったから払う気でいるんじゃないかと思ってはいたけど、こういう流れになるとは。

「いいですよ、おごってくださいよ。これからずっと罪悪感を感じてください。先輩を利用しますよ」

新しい釜飯をあけるとカニの塩っぽい匂いがした。海が来ましたね、とわたしは言った。先輩はおいしそうに焼酎を味わっていたけど、2杯目を注文するときの言い方が完全に酔っ払いでいやだった。

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