新田

むしゃくしゃすることがあった。攻撃をされたわけじゃないけど、沸騰する寸前の鍋いっぱいの水みたいな気分だった。夕方、軽トラで団地まで帰ってきたとき、とつぜん気が変わって「考え、改め、真剣佑」と言いながらスーパーに向かった。ユーモアが死んでなければまだ自分も大丈夫だと思える。そして運転しているときはとくにそういうことばかり考えつく。天才だ。結局は大したことなんて起こっていないし、「あんたはえらい」と言われる日々なのだから。気が滅入っても、だからこそ物腰低く、何か手助けできるようにと目を光らせることで、そのうえで褒められることによって、どこにも向けようのない鬱憤を晴らす。パートのおばさんのひとりは小さなことでも必ずありがとうと言ってくれるから、そういうの嬉しいんですよ、体力温存してください、と物を運ぶのを代ったら、また「爪の垢を煎じて飲ませてやりたい!」と言い出す。表現としては汚い。だいいちに信頼を得ようと考えてきたものの、いざそれをモンスターボールのように投げつけられると「能天気とでも思ってんのか?」と言いたくなる。それが本物の信頼なのかはわからないけど。すべては二面性、矛盾、そして100パーセントではないということ。あともう一度言うけど「考え、改め、真剣佑」はかなり面白い。天才だ。


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