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YouTubeで見つけた「大人向け子ども番組」(小林賢太郎ソロパフォーマンス)

日課のYouTube巡りをしていると、目を惹かれる動画に出会った。

チェロと1人の出演者だけで構成されている、なんとも雰囲気のある演劇。

正直、最初の1~2分を見た感じだと、いわゆるコンテンポラリーダンスのような「アーティスティック」な舞台演劇だと感じてしまった。

別に、そうした演劇が悪いわけでは無いが、個人的にはちょっと苦手だ。

しかし、出演者である小林賢太郎が話し始めてから、その印象は少しずつ変わっていった。

物語は、主人公が誰かに向かって、プレゼンをしているかのような状況から始まる。

冒頭のシーン

イチゴやネギ、キャベツなど、育てる作物の組み合わせと、その成長度合いについての発表だ。

それは、学者の実験報告のようにも思えるし、まるっきりデタラメを言っているようにも思える。

かと思うと、突然次のような意味不明なことを言い始める。

ああ、キャベツと言えば、キャベツの、葉を、ちぎれないように、こう、そーーっと、もうていね~(丁寧)に、もうキャベツ、も、もう、めくられていることに気づかないぐらい、そーーっと、むいて、めくって、めくって、めくって、で、中身を出して、トマトを、入れて、わからないように、復元するんですよ。で、包丁で切ると、トマトが、キャベツの内臓に見えるんですよ。

筆者による文字起こし

個人的には、ななまがりの『細かすぎすぎすぎるモノマネ』を思い出すボケで、「これは面白いんじゃね?」と感じた。

その後、主人公が仕掛けた動物用の罠に少年が引っかかったことで、主人公と少年の物語が始まる(もちろん、少年の声や姿は舞台に出てくることはなく、落語のように目線と主人公の返答によって演出されている。)。

動画を見始めたときから、私は見覚えがあるというか、親近感のようなものを感じていた。

このあたりで気づいたのだが、その正体は子供向け番組だったのだ。

主人公の恰好、はきはきとした話し方、不思議な人物と少年という設定、「うるう」と呼ばれる化け物の姿など、そのどれもが子供時代を思わせる要素だった。

不思議な人物
子供向けの「怖い」お化けの姿

それ以外にも、主人公の父親である「グランダールボ」(正体は大きな木)や、「タビュレーティングマシン」(ただの計算機)など、いかにもな要素がいくつも登場する。

そのタビュレーティングマシンを使って、主人公が行うのが、トランプに書かれた数字を全て足す、というまたしても子供向け番組っぽい計算である。

以下にその計算を簡単に書くと、

A(エース)からK(キング)を全て足すと
1+2+3+…+13=91
それが4組(クローバー、スペード、ハート、ダイヤ)あるので
91×4=364
それにジョーカーを足すと
364+1=365

となる。

ジョーカーを1と数えるのは少し変な気がするが、この365という数が1年の日数と同じになっていること、ジョーカーが1枚だけ余っていることが、物語の重要な鍵となっているのだ。

これ以上は、ネタバレになるので省略するが、役者(小林賢太郎)の演技、舞台セット、チェロの音色を最大限に活用しており、限られた演出でここまでの表現ができるのかと、思わず感嘆してしまった。

山田礼司が言っていた「フィクションに嘘は1つまで」という黄金法則も守っており、ファンタジー作品としても、かなりの完成度だと思う。

しかも、事あるごとにギャグが仕込まれており、そのしょうもなさのおかげで、「やりにいってる感」というか、アーティスティック過ぎる感じが上手いこと解消されている。

色んな意味で、素晴らしい作品に出会えたと感じた。

私はたまたま、この動画で小林賢太郎のことを知ったが、2時間近い作品であるため、短編集であるこちらの方が見やすいかもしれない。

彼のレトリックや演出の特徴を知ることができるし、ギャグも満載なので、入り口として適していると思う。

この作品が良かったら、ぜひ最初に紹介した「うるう」も見てほしい。

これは余談だが、1人で舞台をやっているという関係上、ピン芸人のネタに近い作品が多い。バカリズムのネタや、R-1が好きな人は間違いなくハマると思う。

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