『シャムロック』という曲の話
ニコニコ動画上で開催されているボカロの祭典『The VOCALOID Collection 2022 spring』(通称ボカコレ)、絶賛大盛況ですね。私も曲をたくさん聴いたり公式生放送『ボカコレステーション』を見たりして楽しんでます。
一説には普段の1ヶ月分くらいの曲が4日間で投稿されるとかいうありえんレベルの情報量なので、ボカロ聴きの皆さんがボカコレのたび戦場に赴く戦士と化すなどしますが、それは置いといて。
ボカコレルーキー部門に『シャムロック』という曲を投稿しました。
セルフライナーノーツなんてカッコいい言い方はできないです。周辺情報の話とか、この曲を投稿しての感想も含めて、この曲のことを好きに書き散らします。いつもより読みにくいかもしれません、ごめんなさい。
曲の話の前に、この曲のだいぶへんてこな生まれ方について。
経緯
全ての原点は、2020年に頒布したUTAU滲音かこい短編小説集『滲色平月(にじいろへいげつ)』です。架空の新進気鋭ボカロP『シラヌイ』の代表曲として、『シャムロック』が作中に出てきます。
シラヌイさんと、彼がメインで使っているUTAUの葛駄夜音ちゃんがメインで登場する、『滲色平月』収録話『かくしあい』はこちらから読めます。こちらを先に読んでいただけると、曲自体もこの後の話も理解がしやすいのではないでしょうか。動画説明文にほとんど同じこと書いてるけど。
『かくしあい』、たぶん多くの方には面白く読んでいただけるような気がします。できるだけ解像度を上げたし、けっこう攻めたテーマを取り扱ったわりには、わたしなりの調理法でやわらかく切実な読み味に仕上がったと思う。そうだといいな。
『シャムロック』は正直、『最近出てきた気鋭ボカロPの代表曲』としてふさわしい設定って何だろうなとその場で即興で考えた設定です。タイトルにも、楽器構成にも、『幸せになれない、三つ葉(シャムロック)の少女の歌』というコンセプトにも、かこいちゃん本を書いた段階では深い意味はなかった。焼きそばさん基本的にプロットを脳内でしか書かずにその場で設定と展開生やすからこういうとき深いこと言えなくなる。
かこいちゃん本に出てきた曲を実体化させようって、いつどうやって思い立ったか自分でもよくわかってなかったりします。作曲、一回挫折してたし。それでも思い立ったからにはできるだけいいものにしたくて、編曲とイラストでそれぞれ別の方の力をお借りしながら、なんとか世に出せました。
曲の話
最近のトレンドっぽい、テンポゆったりめのダウナーでおしゃれな曲がやりたい!!! やりたいったらやりたい!!! そんな感じです。編曲はもりさんという方にお願いしたので私から語れることはあんまりないですが、イントロのエレピがまずキャッチ―でいいですよね。楽器構成は比較的シンプルで、でもちゃんとメリハリがあって。間奏のアコギソロ(でいいよね?)めっさすき。
歌詞ですけど、直接的になりすぎない程度に、この子の感情を素直にさらけ出そうと思って書きました。テーマもわかりやすくシンプルに。恵まれてないわけじゃないけどどこか満たされなくてさまよっている女の子、すき!
夜音ちゃんの声のほの暗い甘さが本当に大好きで。聴きやすくさらりと歌ってもらいながら、曲に合う倦怠感というか、ネガティブさも出せるようにがんばりました。夜音ちゃん、音源が何種類かあり、どれにするか迷ってオーディションを開催しました。選ばれたのは落ち着いた声質の-よぉ-でした。
動画の話
一番がんばったと言っても過言ではない! AviUtlひよっこなりにがんばって『最近のおしゃれなボカロ曲でよく見る演出』をこれでもかと詰め込みました。歌詞ぐりぐり動かすのはうちののーぱそちゃんが重すぎてほとんどできなかったけど……後半、動画のプレビューすらだいぶカクカクな状態で作業してました。無理すんじゃないよ。
一つひとつの演出についてはあんまり触れないでおきますが、それでもいくつか箇条書き。
・冒頭のカメラ上に振って腰あたりまで見せてから(といいつつカメラ制御使ってないけど)勢いよく下に振ってカットするの、カッコいい……カッコよくない?
・イントロの文章めっさ力入れました。温度感とか意味の取れ具合はぬゆりさんの曲をかなり参考にしています。フラジールとかプロトディスコとか。 普段は感情や書いてあることがダイレクトに伝わるよう心掛けているので、こういう崩した意味深長な文章書くの慣れてないんですけど。少し幅を広げられたかも。あくまで、かも。
・『かくしあい』からいくらかシーンを抜粋しました。当然ながら、あのお話を呼んでない方が圧倒的多数だと思うので、簡単なあらすじみたいな感じで。キャラクターをつかみやすかったり、つよいと思うとこだけ抜き出してぶつけたぞ! (ボカコレあまりにも曲が多いから、1曲に時間かけられなくてあの文章読み飛ばした人多そうだけど……しかたないね)
・クレジットの演出がんばった!!!!!
・間奏の『五日でほこりを被ったギター』のイラストを描いたのは私です。画像検索で出てきたアコギを参考に見よう見まねでどうにか。
・ラスサビで中抜き明朝体クソデカ歌詞バーン!!気持ちいいね!!
・ちゃんと作中に出てくる通りの文章が出て終わります(以前お買い上げいただいた方にはごめんなさい、頒布時から該当部分の記述変えたのであの通りにはなってないです……)
シラヌイさんのこと
彼の実在性を高めるためにいろいろ考えたりこだわったりしたつもりです。投稿予告ツイートのときからずっと、そこは徹底しました。どこをどう徹底したかは例によってひみつだけど……!
正直、動画冒頭の文章でも出てきてる作風と『シャムロック』のそれがあんまり一致してない感はあるけど伸びるときってまあそんなものかもしれない。
これは正直曲とはあんまり関係ない話ですけど、シラヌイさんは絶対ふだんあんまりツイートしない人だと思います。スマホ慣れしてないからバンドのときからSNSはレーベルの人とかバンドメンバーに一任してて、いざボカロPとしてセルフプロデュースしなきゃいけなくなってめっさ頭抱えてると思う。仕方なく口数少ないミステリアス方面に逃げてる。絶対そう。ツイートするときもなんていえばいいかわかんなくて文面がシンプル、絵文字とか使わないし使えない。
……幻覚が紛れ込んでた気がしますが、どうか彼の曲をよろしくお願いいたします。
投稿したあと
正直、埋もれたと言って差し支えない伸びだと思います。現時点ではですけど。『ニコ動にボカロ曲を投稿し始めてから2年以内』のルーキー部門ですが、すでに高い人気を獲得している人やものすごい実力をつけている人、このお祭りに本気の本気で挑んている人がたっくさんいます。部門100位以内なんてむずかしいだろうし、お祭りを投稿者としても楽しめたらそれでいいかなのつもりではいました。
でもやっぱり、悔しいですね。「現状のわたしが人の手も借りて出せる最大火力の『今のボカロ』」をやりにいってこれなので、正直へこむというか、力不足だなあみたいな。編曲のもりさんもイラストのあふたりふくさんもこの曲に合ったとても良いものを作ってくださいました。違うんです、力が及ばなかったのはわたしだけ。
メロディも調声も動画も宣伝方法も、がんばったけどたぶんもっと上があって。例えばドラゴンクエストⅥ(だいすきなゲームです)の下級職の熟練度は☆1から☆8まであって。☆8まで熟練度を上げた下級職がふたつ以上あって、それが特定の組み合わせだと、より強力な上級職になれます。今の私は☆2か☆3くらいの下級職がいくつかある中途半端な状態です。そこに至るまでの労力でひとつの職業(スキル)だけを鍛えてたら☆8になれてたかもしれません。下級職の☆8ならそれなりに戦えます。
なんだか伝わりにくいたとえをしましたが、要はぜーんぶ半端だな~~~!! 器用貧乏とすら言えないな~~!! となっています。根っこから力不足なのを思い知らされました。
もりさんにもあふたりふくさんにも夜音ちゃんにも、そしてシラヌイさんにも申し訳ない。『気鋭ボカロPの代表作』という設定を彼に背負わせておいてこれかと思うと、ほんとうに。
ただ、視聴、予告・投稿ツイートへの反応、ニコニコでのいいね・マイリスト登録・コメント、twitterでの感想ツイートなどをしてくださったすべての方には心からの感謝をしております。現時点で4,000曲ほどある(!?)ボカコレ2022春参加曲から私の曲を見つけてくださり、本当にありがとうございます。
もっと強くなりたいです。自分でできることを増やしたいし、誰か他の方の力をお伝えするときも、自分の中にあるものをより正確に伝えられるようになりたい。
こういう書き方をすると悔しさだけが原動力みたいですが、曲を、動画作品を作ること、本当に楽しかった。『シャムロック』の1週間前に、自分で全部やった『さなぎのうた』という曲を投稿していまして、まあここ2週間デスマーチを踊ってたんですけど。タスクの山に埋もれてたいへんなことになってた時間も、ずっと楽しかった。
自分の中にあった理想をそれに近い形で出力できたとき。かこいちゃんや夜音ちゃんがベタ打ちの声を出したとき。それをもっと素敵にする過程。動画作成でうまくいかないこととかやり方がわかんないことを調べて、それらしい記事を見つけて解決したとき。あるいは調べなくても自分の思い付きで解決したとき。動画が完成に近づいてきたとき。完成したとき。動画説明文を考えるとき。投稿したとき。
ぜんぶ、本当に楽しかったし、うれしかった。
6年と半年くらい前から細々と小説を書いていて、半分生活の一部になるまで侵食されていますが、いつか音楽もそこに並ぶかもしれません。楽しくても、うまくいかなくても、悔しくても。続けられたらいいなって思います。続けられる気がするなって、そう思えました。『さなぎのうた』も『シャムロック』も、わたしの人生の大切な結晶になりました。
最初はボカロの声にすごく抵抗があり、聴き始めてからもゆるゆる浅瀬を漂うだけでした。そんなわたしが、いつのまにかボカロ曲を楽しんで聴いたり、自分なりの感想を発信したりボカロ関係の創作を続けられるようになっていて。twitterのフォロワーさんなどいろんな人のおかげが大きいですが、ちょっとは成長できたんだろうなって思います。
今回のボカコレが終わっても毎日はつづきます。今後も『シャムロック』をはじめとして、わたしの作り出すものをどうか、どうかよろしくお願いいたします。かこいちゃんや夜音ちゃんとがんばっていきますので。
しんみりしちゃった。こんなはずじゃなかったのに。
ボカコレはあと1日あるし、ニコニコ超会議は30日?までやっています。お祭り、楽しんでいきましょうね!
最後にお知らせ
先述しました滲音かこい短編小説集『滲色平月』、現在は通販ページを取り下げていますが、年内に書き下ろし2篇を追加して再販できればと思っています。前日譚と後日譚です。
曲の投稿に合わせて『かくしあい』をweb再録したので、かこいちゃん本の7割くらいがwebで読めるようになったんですけど。それだと以前お買い上げいただいた方に少し申し訳ないので、それらの方には、再販時にBOOTHのメッセージ経由で書下ろし分のデータを無償配布する予定です。
あと、かこいちゃん本の再販と同じタイミングで、本に出てくる作中曲を実体化したもの(『シャムロック』とか)や、収録話のイメージソングなどを収録した5曲入りのミニアルバムを頒布予定です。本当は2月のボーマス47で出す予定でしたが、ボーマス47自体が7月に延期になったり、やっぱりこのご時世で遠征しづらいなと思ったのもあってボーマス参加をキャンセルしました。たぶん通販のみになるかなと思いますが、いつか即売会も出たいですね。2年前も、かこいちゃん本をはじめて頒布予定だった即売会が中止になったし!
そんなこんなで、海鮮焼きそばでございます。最後までお付き合いいただきありがとうございました。
・追記
編曲のもりさんに「このあたりを参考にしてください!」って投げたリファレンス曲を貼っておきます。どれも素敵だぞ。特に『fuzzy days』、だいすき。