とある店の記憶 4

フリーフローという言葉を聞くようになったのは、いつからだっただろうか。ANAインターコンチネンタルホテルのシャンパンバーがフリーフローだと言うことにずいぶん驚いたから、全日空ホテルが、ANAインターコンチネンタルホテルに名を変えた頃だろうか。

飲食店に勤めていたせいで、つい原価率を計算してしまいがちだが、スパークリングワインの苦労は原価率よりも廃棄率が高い事で、開けてしまったらその日の内に売りきらなければならない。良いストッパーも今ではあるが、やはりガス圧は徐々に下がってしまう。それを逆手に取ったシャンパンフリーフローというのは本当に衝撃的だった。

しかし、そんなにシャンパンばかり飲めるものでもない。コース料理が進むと普通のワインが飲みたくなる。そんな訳で気になってはいたが、実際に体験できたのは、割と最近になってからだった。

あれは誕生日前、最後の土曜日だった。
誕生日をどこで祝うか…自分で決めた。日本橋のマンダリンオリエンタルホテルのラウンジで遅めのアフタヌーンティーセットとシャンパンフリーフロー。

久しぶりのハイヒールを鳴らして降り立った38階。目の前には暮れゆく空とビルの影、高速道路には光の川が広がっていた。名前を告げて席に案内され、椅子を引かれる。やがて、シャンパンがサーブされ、3段のハイティスタンドでフィンガーフードが供された。可愛らしく、細々と、色々なフィンガーフードか並べられたアフタヌーンティーは華やかで、軽やかでシャンパンで通すにはぴったりだった。ハイティースタンドを見るとシルバニアファミリーを思い出す。パステルカラーの少女の思い出。かわいい、楽しい、を集めた。複雑な事など何もない、心地良いと思う事だけで満たされていれば良い。つまらない事はシャンパンの泡とキラキラの夜景が消し去ってくれる。
ふんわりと酔った頭でそんな事を思った。

少女といえば、書いておきたい人がいる。
それはまた次のお話で。

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