バカな事言ってないで、ちゃんと検査しよ?

人の論を批判する場合、相手(論者とその論の支持者)に、「なぜ、どういう理屈でどこがどうおかしいと言ってるのか」をできるだけ詳細に伝えたい派なのですが、それをやると長ったらしく、相手以外にはわかりにくい文になってしまうのですねー。

というわけで、詳細に関しては必要に応じて前回のエントリを参照していただくとして、
https://note.com/tablesalt/n/nab3beae72b93
このエントリでは前回カバーした内容を、もう少し読む人目線で語りたいと思います。


先日、ツイッターではちょっと有名な吉峯弁護士による、国の専門家会議が掲げるコロナ対策の解説↓へのリンクが「すごくわかりやすい」「素晴らしい」といった絶賛の言葉とともに流れてきました。


だから読んでみたんですが。

うーん、なんというか。

吉峯さんの解説は少なからず事実を歪めて伝えている箇所があるんですけど、そんな事をしてまでどこに行きたいのかが全く見えませんでした。
はっきり言うと、迷走しているようにしか見えない。


吉峯さんの「解説」の大まかな流れはだいたいこんな感じです。

・封じ込めにはもう失敗した

・だから「緩和」するしかない

・でも緩和しても15~150万人の死者

・そんな絶対絶命の状況に出てきた最後の希望が、「天才」の論文に基づき専門家会議が考えた秘策、「クラスター対策」。これに賭けるしかない。

・これによると、「密室・密集・密接」の三条件を満たすところでしかクラスターは発生しないから、国民はこの三条件がそろわないように注意さえしてれば経済活動続けて大丈夫!

なんですが。
そもそもその「封じ込めは失敗した」というのが、「初期での痛みのない(経済活動などに影響を与えない)封じ込め」に失敗したという事であって、「もう封じ込めはムリ」というわけではありません。

国家のエマージェンシーとして平時の常識を逸した手段、「ロックダウン」が残っています。

実際ここ数週間世界では、とても許容できない大量の死者を目の当たりにして、「何が何でも「封じ込め」なければならない!」となり、段階的にこのロックダウンをかける、というやり方が一種のスタンダードとして定着しつつあります。

吉峯さんもこの「ロックダウン」について、ご存知ないわけではないんです。
クラスター対策に失敗したら15万人が死ぬ、と冒頭では言うんだけど、なんと後半になって突然、「クラスター対策の密室・密集・密接は、欧米がやってるロックダウンよりずっと簡単」と言い始める。

ちょっとあからさますぎて驚くぐらい不正直な論じ方なので驚きました。
最初に紹介する時は「これしかない、これがないとみんな死ぬ」って言っておいて、蓋を開けてみれば「いや、他にも手はあるけどそれよりは楽だから」って、一昔前の怪しいセールスマンみたいな論法です。

そもそも、なぜ吉峯さんはそこまでしてクラスター対策を人々に買わせたいんでしょうか?



当のクラスター対策なのですが。
まず認識しなければならないのは、これが根拠薄弱な机上の空論だという事です。

吉峯さんはクラスター対策の論理部分を二本の論文を引いて解説しています。
一本目の論文は、このコロナは感染者の間で、「何人新たに人にうつすか」に大きな差がある、とするもの。
二本目の論文は、これをもう少し洗練させて、「たくさんの人に感染させる出来事」がたまに起きる以外、ほとんどの人は他人を感染させない、というものです。そして、「たくさんの人に感染させる出来事」は「閉鎖環境」で起こっていた、ともその論文は言います。
二本目の論文は査読すらされていません。

一本目の論文も今のぞいてみたところ、「武漢のような指数関数的感染の爆発が中国の外では見られない」という現象を説明するために立てた仮説に基づいたシミュレーションの話でした。「武漢のような指数関数的感染の爆発」が世界中で発生している今、このシミュレーション結果は一旦棄却していいと思います。

https://hopkinsidd.github.io/nCoV-Sandbox/DispersionExploration.html

この論文に限らず、今の段階(ウイルス出現から数ヶ月)では論文の主張の確実性なんてその程度のものです。二本目の論文は百十件という少ないデータのみを分析した結論で、ましてや査読も未了ということですから、確実性はさらに下がります。

つまり。
本当に三つの条件が重なりさえしなければクラスターは発生しないのか。
本当にそれを潰していくことでR0を1以下に押さえ込めることができるのか。
実際問題どうやって「潰す」のか。そのための具体的手法はそれぞれどの程度の効果が見込めるのか。
そういうことが全くわからず、上手く行くという確実性がとても低いという事です。

「ないよりはマシだからやれるよりはやってみよう」という手段として提案されるのならクラスター対策には何の文句もないのですが、「これが効く事に全てを賭けよう」という話ならそれは頭おかしいだろと思うわけです。

でもどうも吉峯さんはそういう話をしていると。

検査も、飽くまで「重症になるのを待とう」って言う。
重症になるのを待っているとその間にタイムラグが発生するので危険、という事をわざわざ説きながら、それでも重症になるのを待つ、という。
「なぜかというと、そうするか若者全員検査をするかしかなくて、百人の感染者を探すために百万人検査したら擬陽性がたくさん出るから」ということなんですが。

検査の鬼と言われる韓国でさえ累積で30万件なのですが、なぜ「重症になるまで待つ」から一気に「百万人」に行ってしまうのでしょうか?



わたし個人的には、「日本はアメリカの一週間から十日後ぐらいにいる」可能性が一番高いと思っています。(手洗いマスクでダブリングタイムが数日伸びているんではないか)だとすると後一週間か十日ぐらいで日本でも誰の目にも明らかな爆発的増加が始まるはずです。

感染者数が増えているのかどうか、感知できるところまで検査範囲を広げるべきです。
そして、爆発的増加の兆候が見られたら迅速にロックダウンをかけるべきです。
誰も新しく感染しなければ、今既にいる感染者のほとんどから数週間でウイルスが消える。
症状が残っている人を隔離すれば、それでも無症状で感染能力を持った人は残るでしょうが、再びひとつひとつ追跡して潰していくことが可能な規模までロックダウンで数を減らすことはできます。


吉峯さんも触れていましたが、ICUがパンクした時点でロックダウンをかけても、そこから数週間は死者も重症患者も増え続けます。
だから早めに見極めて先手を打つことが重要です。
そのためには、検査範囲をもっともっと広げて、感染者の増加を早め早めに感知できるようにする必要があります。


ですのでそう考えるわたしにとって吉峯さんの主張は、全くのナンセンスにしか見えません。未だにカラオケすら閉鎖されてない「クラスター対策」に全てを賭けるなんてバカな事言ってないで、ちゃんと検査しましょう。


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