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21歳の夏(1)

 優子は尚希を本命と以前から決めていたが、複数の男性から言い寄られていた。好きな人がいるのよといつも誘いを断っていたけど、脇の甘さがポロリと出て、声を掛けてくる男性の数は減りそうもなかった。尚希はそんな優子の態度を知っていたけど、その事について優子と話し合う事はなくて、彼女が真面目に生きようとすればするほど、彼の居心地が悪くなる事を薄々勘づいていた。優子は昼間はOLとして働いていたけど、安月給で時間外労働までさせられる事が堪らなく嫌だった。優子は21歳と若く、性格もエネルギッシュで、女性を武器に夜の店で働きたいと思う様になった。高校を卒業して成人を迎えるまでは実家で暮らしていたけど、昨年念願の一人暮らしを始めた。尚希と疎遠になると思ったけど、彼も彼女を追いかける様に、都会に出てきたのだった。

 転職する時、尚希に相談したけど、彼に反対する理由はなかった。優子はOLを辞めて夜の店で働き始めた。給料は3倍に増えた、彼女は入店後直ぐに人気が出て、フォローしてくれるお客さんも沢山いた。金遣いが荒くなり、今まで手が出なかったブランド品を買い漁った。尚希はそんな彼女を見て笑っていたけど、付き合う気もなく、ただの友人関係を楽しんでいた。優子は尚希が自分を都合の良い女として扱うのを見て見ぬ振りをしていたが、彼の事を本命として扱う気持ちに揺らぎはなかった。しかし、彼女も尚希と付き合う気はなく時間だけが過ぎていき、21歳の夏を迎えようとしていた。

 店の同僚二人と三人でキャンプに行こうと言う話になった、尚希が車を出してくれると言うので、彼の友人三人もついてくる事になり、総勢七人でキャンプ用品を買いに、ショッピングモールに遊びに行く。尚希は消費者金融の営業として働いていて、友人も建設業や土木関係と年齢の割に金回りの良い仕事をしていた。若者らしく軽い感じで、数日前には優子の店にも遊びに来た。友人達は尚希の連れですと簡単に紹介、彼女の同僚もノリが良いねとはしゃいだ。尚希は後から合流したんだけど、彼はお酒が飲めないので、彼女はオレンジジュースの炭酸割りを作ってあげた。「特別だよ」と一声添えた。仕事終わりにカラオケに行こうと言うことで、彼女の同僚に誘われて嬉しくて飲めないビールを飲んでしまった。カラオケ店に入った記憶はあるけど、途中からの記憶がない。気づくとホテルの一室に優子の同僚といて、彼はベッドで横になっている。同僚は隣でスマホをいじっている。尚希は「何かあったの」と尋ねると、同僚は「今日の事は内緒だよ」と呟いた。彼はスマホを見ると、「明日のキャンプどうするの」と優子からメールが来ていた。それに気づいた同僚が「優子と付き合っているの」と確認してきた。尚希は「違うよ」とだけ答えた。彼の心持ちが「スーッ」とするのを感じていた。彼自身悪い男だなと思った。

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