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21才の夏(12)

刑事の探偵事務所は西新宿にあった、優子の勤める歌舞伎町のキャバから目と鼻の先なのには驚いた。優子は直ぐに会う約束をした、今の仕事が実は優子にとって退屈なもので、お姫様達の教育係なんて、しょうに合わなかった。翔の事もあるので、手は抜いていなかったが、弟の件の方が気になっていた。電話で話すと刑事の対応もよくこれからの進展もありそうだったのだ。刑事によるとしょっ引かれた男の話になったが、その男がこの事件のキーマンに違いなかった、優子は直接会って話をしたかったけど、刑事の手前、無理も言える状況ではない、これから刑事と会うのでお金と交渉次第ではあると思うのだ。


優子の仕事は新人の子をまず店に出勤させる事、面白いと思わせてやる気を出させる事、当然給料もOLの数倍は貰えることをうたっていた。その為には店の営業時間で働いているより彼女達のプライベートを知る必要があり、彼女達が頼りにする様に振る舞った。彼女達の悩みは男かお金であった。優子は尚希と長い間付き合っていたので男の心理には詳しくて、手の上で転がすやり方を知っていた。お金については翔と、お嬢様達の面倒を見る為にはお金が必要だ、軍資金を用意してくれと掛け合っていた。翔の店は売り上げも良く客まわりも優れていた、翔も良いキャバ嬢が居ないと男達が寄りつかない事は知っていたので自ら、他の店から引き抜いていたのである。翔は引き抜く段階で娘達にはそれ相応のお金は払っていたので、優子の言い分を聞く気はなかった。優子は仕事を進めるには自腹を切るしかなかったのである。それと翔の弟の件も費用がかかりそうなのである。今の手取りでは到底足りるものではなかったので副業を始める事にした。優子は元の店では一番の売り上げを上げていたのである、仲間の信頼も厚かった、それを利用しない手はない、今の給料ではやっていけないのだから、キャバ嬢に復帰する事にしたのだ。その方が優子の心持ちも幸せであった。やっぱり接客の方がすきだったのである。優子は翔の店では、マネジャーの見習いという事で月に100万の給料をもらっていたが、周囲に認められて、正式にマネジャーになれば月に300万払うと翔と口約束していた。口約束なので本当かどうかは分からないが、しかし100万の給料ではお嬢様のオムツ代にもならなかった。だから副業で以前もらっていた給料100万は稼ぎたかったのである。しかし、元の店長からは店を抜けた奴にそこまでお金はやれないと言われた。優子もやれやれと思ったが、直ぐに取り返せる自信はあった。翔にバレてもなんとでも言える、翔に子飼いにされているとはいえ、自分で結果を残すしかなくて、フリーのキャバ嬢として活動するしかなかったのである。


優子の翔の店での仕事は、客が入るまでの数時間が勝負だ、それまでにキャバ嬢達が最高の仕事ができる様にマネージメントしなければならない。それが終われば自分の出る幕はない。刑事の居る、西新宿の探偵事務所へと足を運んだ。週末の金曜日である、店には女性目当てに、獰猛な男達がやってくる。その男達の顔と名前を覚えながら、趣味趣向も探っていく。一時間程働くと抜けれる時間ができたので、事務所に向かったのである。事務所に着くなり、優子は刑事に要件を手短に話して、直ぐに店に戻らないといけないからと話した。刑事は、服役した男の今の住所がわかった、これから進めても良いけど有料だ、費用は刑事の頃の3倍は貰う、お前の給料で払えるか。優子はお金はなんとかするから、私と会う時間を作って欲しいと刑事に伝えた。刑事の顔が少し喜んでいるのが分かった、金払いの良い客が少ないんだなと思った。それなら私は上客だ、我儘も言わせてもらう。

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