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21才の夏(8)

綾さんは俺だと気づくと、タバコに火をつけてぷかりと息を吐いた。一呼吸置いてから、何が聞きたいのよと話した。俺は騙そうとしたのは何故と尋ねた、綾さんはまだ答えられないと言う、じゃあ翔と関係があるのと質問した、貴方のご想像にお任せするわと答えた。尚希は優子の事も知ってるんだよねと確認しようとしたけど、良い加減にしてと席を立って、何処かに行ってしまった。後輩は尚希さん、何か綾さんとの間に何かあったんですかと聞くので、いや別に、俺は店出るわと会計を済ませて後にした。


俺は綾さんの態度から、翔が裏にいることは間違いないし、俺を騙そうとした事も優子と関係がある事を理解した。直ぐに優子にメールを打つ、翔は何かを企んでるぞと話した。優子は何をと尋ねてきたけど、尚希はいい話じゃないと思うから知らない方がいいと思うとだけ答えた。俺は翔に直接話をしたいと思ったけど、暫く考えて、揉め事をぶり返さない方が、優子の為にも良いのではないかと思い始めたのだ。しかし、翔の目的が優子を不幸にするものであったなら、俺は直ぐにでも優子を守ってやらなければいけない。だから、その事だけは翔に確認しておきたいと思ったのだけど、男と女の話だから、仕事の話になって相手の事を幸せにしてやるなんてあり得ない話で、人間なんて自分の利益しか考えていない訳だから、相手の言う事を聞けば最後には不幸になっていくので優子が歌舞伎町で生きていく為には、良い人ずらしていてはやっていけない事は明白であった。


だから、翔が優子を思い通りにしようとしているのは当たり前で、お互いに何処まで利用して利用されるのかを考えるだけの気がするのだ。だから俺が翔の前に出て揉める事は馬鹿馬鹿しいし、子供騙しみたいな事を俺がしようとしてるみたいで嫌気がさした。今話してきた事は当然優子も理解しているので、これ以上翔の事について優子の前であれこれゆうのはやめたのである。俺は優子に翔の事を利用するぐらいの気持ちがなければ、キャバの仕事やめた方がいいぞと伝えた。


優子は尚希に私の事守ってくれないんだと話した。尚希は自分の尻ぐらい自分で拭ける様にいい加減なれよと冷たくあしらった。優子も尚希の態度にケラケラ笑った、もう高校生の頃の自分達ではなかった。お互いに大人になって成長したのだ、優子は歌舞伎町で生きていく為に翔の店に移る事を決めた。尚希にその事を伝えても賛成も反対もしなかった、ただしこれ以上何かあったら直ぐ俺に言えよとだけ伝えた。尚希も優子も東京で生きていこうと必死にもがいていたのだ。21才の夏のことである。


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