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BLACKPINK(ROSE).part8

 なつは僕の彼女がくれた冷蔵庫の電源を入れて、冷えるのを確認しつつ僕が何を言っていたのか思い出そうとしていた。

 3人で初めて会ったのが五日前の隣町のボーリング場の隣にある、カラオケの森である。僕が彼女を紹介すると言うのでボーリング場の一階にある喫茶店で待ち合わせしたのだが、19時を過ぎても彼女は姿を見せなかった。痺れを切らした僕はなつに要件を話し始めていた。私は彼女のことが気になって僕の話を上の空で聴いていて良く覚えていない。僕が英国の話をし出したところで遮るように彼女が到着した。彼女は本当に申し訳なさそうに仕事でトラブルがあったと話し、これから対応しなくちゃいけないからと足早に私達の前から居なくなった。それで届いたのが私の前にある冷蔵庫である、僕から自宅にないと困っていることを聞いてお詫びの印だとヤマダ電機で購入してくれたのである。やっぱりあの日の事を最初から考えても僕の用件を思い出す事はできなかった。今日僕と職場で会うので、もう一度確認しようと思っている。

 僕はなつがどんな対応をしてくれるのか楽しみにしていた。先日のカラオケでなつが歌ったBUMPOFCHIKENの天体観測を思い出していた。男の僕が歌うより、ドライな声で藤くんらしかった。彼女の声に鳥肌がたったので、僕の曲も歌ってほしい事を伝えた。

 なつは、「先日はごちそうさまでした」ともう一度挨拶した、僕は「冷蔵庫届いた?」と尋ねた。自分でも何話してんだろうと思ったが、「これで食材のまとめ買いが出来そうです」と話した。僕はなつと話すといつもの調子が出ない。

 僕は仕事終わりに、食事に誘った。役場の向かいにあるアンデルセンで朝のモーニングを一緒に食べながら、「返事はゆっくりで良いから」と言うと、「あの日の僕が言った事よく覚えてないんですよね」となつは言う。

 僕はイライラしてはダメだと心に言い聞かせながら、なつに話そうとしたけど上手く言葉が出てこなかった。出てきた言葉は「彼女とハロウィンを楽しもうと思っているんだけど、一緒に遊ばないか」と誘った、なつは「良いですね」と言っていたけど僕の心は折れそうだった。


 僕はなつに聴いてもらおうと、持参していたデモテープを渡した。なつは僕に何か?言いたげだったけど確認する事はできなかった。

 なつは僕が何を言いたいのか何となく理解することができた。分かりやすく言うと音楽をやらないか?と言う事だ。しかしなつは音楽を一緒にする事は無理だった。なつには歌を歌う事は無理だったのだ。喉にポリープができていてそれを手術しないといけなかったのだけど、声帯を傷つける恐れもあるので勇気が持てなかった。それを僕に伝えようと思ったけど上手に伝えることが出来なかった。もしかしたら言わない方が良いのかもとさえ思い始めていた。僕の期待に応えて歌う方がよっぽど本人で居られることが出来たからだ。だからデモテープを貰った時にどうしてもその曲が聴きたくなったのである。

 僕はなつの気持ちを露とも知らずに、新曲の事を説明しだしていた。「僕が歌う為に作ったけど先日のカラオケでなつの声を聴いて、是非歌ってほしいと思った」と伝えた。なつは「ありがとう」と言いながら、喉のポリープを手で触っていた。僕の想いがなつに伝わっても願いが成就する事は難しかった。

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