世界にただ一緒にいる彼(9)

まさみはキャンパスを一人でぶらぶらするのがすきでした、授業がない日でも図書館に入ると談話室で新聞を読んだり、雑誌に目を通した。建築の本を見るのが好きで本で紹介されている場所にも足を運んだりした。地下には勉強するスペースがあり、資格取得を目標にした学生が良く利用していた、食堂も学内に複数あって、リーズナブルで昼時には多くの学生で賑わった。まさみは芝生の上で寝転がり、春と秋の季節のいい時期なんかは新入学生を勧誘するサークルのメンバーの前でふざけて見せたりした。なんかこれからの将来の事を考えると息苦しくて、きっと辛い事が待っているのだと納得出来たから、今の時期だけでも嫌な緊張感を忘れたかったのだ。航と聡一は逆で早く社会に出たかったが、大学院まで残って勉強を続ける事に、両親や友人の期待を受けていたのでもう暫く辛抱しようと思っていた。航は演劇の勉強をしに海外を訪れたいと思っていたし、聡一もプロの写真家になりたいと高校の時の友人と連絡を取り合っていた。まさみは将来の事を決めていなかったが、母親がファッションブランドを展開していたので、高校生の時に通販サイトを立ち上げた、先日もその事で母親から手伝ってくれないかと電話があったんだけど、忙しいからと断った。母親の仕事を引き継ごうと思っていたが、今よりも大きく利益を上げる展開がしたかった。今、大学で学んでいるのは大きなお金を動かす経験がしたいのが理由だった、だから猿渡先生の元で商業捕鯨についてディスカッションしているのだ。先日、猿渡先生が国の担当者に説明した時に、商社の人も同席していて、私もこれはチャンスだと思って少し仕事について話させて頂いた、社会人になって大きなお金を動かしてみたいんだけど、海外から輸入している天然資源を扱う仕事は年間にどのぐらいの取引があるのかと尋ねた、商社の人も僕は海洋専門だから分からないけど、うちで働いてみたいのならインターンシップを紹介するよと言われた。まさみはまだ2年生なんですよというと、話を聞いてみたいのならいつからでも良いですよというのだ、まさみも是非担当者の人と話してみたいという事でとんとん拍子に話は進み、来週にも会社を訪れる事になったのだ。


立花と付き合う約束をしてから、スマホだけの連絡のやり取りで1週間経過していた。立花は仕事が忙しかったから仕方なかったんだけど、年齢を確認しようとするといつも曖昧な返事をした。まさみもどうしてかなあと思っていたけど、その疑問は数日後には理解する出来事が起こったのだ。立花と近所の定食屋さんで夕食を食べようと誘われて店で待っていると、立花がまさみより少し年上の女性を連れて入ってきた。まさみは誰なのと声をかけたが2人とも答えようとしない、まさみも元カノかと思って、良い加減にしてよと怒ったら、その女性が違うんです、立花の娘なんですと答えた。まさみもびっくりして、立花にどうして紹介しようと思ったのと尋ねると、立花が娘がまさみに会いたいというからさと答えた。女性の年齢は27才でまさみより7つ上だった。まさみもそれで立花が年齢を言いにくそうにしていたのだなと思った。だって、自分の娘より年下の女性と付き合うって事が娘にばれたら反対されるに決まっているもんなと思った。娘さんがまさみに立花の妻が亡くなったのは10年前で、私が高校3年生の時だった。それから父の面倒は私がみてきたし、二人三脚でやってきた。父も私が成人するまでは真面目に仕事に取り組んでくれて、成人してからも女性の噂はなかった。そんな父から付き合いたい女性がいると言われて私もまさみさんに会ってみたくなったのだと言う。まさみも最初はバツが悪かったが、3人でお酒を飲みながら食事を食べると、皆んな気さくな人で直ぐに意気投合する事ができた。まさみは娘さんに、立花って本当は何歳なんですかと尋ねると52才だという。まさみは今年成人したばかりなので、32才歳が離れているのか、この恋愛も黒歴史になるかも知れないと思った。

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