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21才の夏(9)

翔の店に移る日、優子は入店の直前まで翔と会うのを拒んでいた。連絡を密にとって利用されるのが嫌だったからだ、優子のやる気は低下していた。翔の店で頑張る気力は失せていたのだ、翔の対応によってはキャバの仕事を辞めようかとも思っていたのだ。黒いベンツが店の前につける、翔が優子に気づいて、合図を送る。優子はパワーウインドウの側まで行き、何をすれば良いのよと翔に尋ねる。翔は取り敢えず新人の子の面倒見てくれる、キャバのイロハを教えてやってくれ。お前のこれからは新人の子の反応を見て決める事にしようとベンツの奥から告げた。あいよというと、優子は店に出勤、翔は夜の街に消えていった。


ベンツの中の翔の隣には、綾が座っていた。綾は尚希が来なかったわねと話す。男同士、仕事の事で話す事もないだろ。優子の態度を見れば、キャバの仕事を続けたければうちでやるしかないのだから。綾はこれからどうすればいいのと尋ねる、翔は優子が俺の思い通りになるのはもう直ぐだ、尚希が優子の様子を伺いつつ、俺を訪ねてくるだろうから、その時に優子と別れる様に働きかけて欲しい。優子と尚希がつるむのを止めれば、優子を不幸のどん底に落としてやる事ができる。綾はどうして、優子をそんなに憎むのと聞く、優子は俺の弟を殺したんだと言う。綾は何があったの、俺には双子の弟がいて、優子と高校の時の先輩だったのが弟で、二人は俺の事を先輩だと思っている様だが、弟はあの時に暴力組織に殺されたんだ。あの時って、優子が弟を裏切ったときさ。優子に弟はパパ活を斡旋していて、それを辞めさそうとする尚希とぶつかった。喧嘩に負けた弟は仕事を失い、暴力組織に逆に目をつけられる様になる。弟は尚希と優子のせいで生きていく事が出来なくなった。綾はじゃあ尚希も片付けなくて良いの、翔は尚希は腕っぷしが強い、優子が居なくなれば、俺を頼るしかないんだ。元々自分で生きるタイプじゃない。問題は優子の方だ、あいつはしぶとい女だ、キャバの仕事でも一番にならないと気が済まないのさ、でもうちの店には俺がいる。優子の思う様にはいかない。グループに二人のリーダーはいらない、今回は優子には弟を殺した責任を取って貰うんだと話した。


綾は翔が話す内容をボイスレコーダーに録音していた、尚希に聴かせるためだ。綾は尚希に翔の本音が知りたいと頼まれていたからだ。綾は店で尚希に会った後に、優子が翔に騙されようとしている事を伝えていたのだ。どうして、優子の事を救おうとしたのかは自分でも分からなかったが、優子が不憫に思えて仕方なかったのかもしれない。尚希が私の事がすきだと言ったからだ、優子が高校の時から尚希に気が合ったのは知っている。だから優越感に浸りたかったのかもしれない、ただ翔の元で日陰の女を演じるのは嫌だったのである。表の甘い蜜を綾も吸いたかったのである。綾は尚希に音声データを送信した。尚希はそれを聞いて驚いた。昨晩、優子が尚希に話してくれた事と同じだったからだ、優子は翔が高校時代の先輩の兄であると知っていたのだ。優子の話は突拍子もなくて信じる事が出来なかったが、翔の話を聞いて納得できたのである。尚希は翔の店に居ても、優子にとって得をする事は一つもないと気づいた。優子を翔の元からどうやって引き離そうかと頭を捻っていたのである。

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