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21才の夏(6)

優子が勤めるキャバは歌舞伎町にあった、観光客にしか褒められない街だけど、優子にはとても居心地の良い場所だった。日本という感じもしないし、東京でもない、外国の空中都市の様な雰囲気があった。空中都市と言われると分かりずらいかも知れないが、中国の上海の様な場所だった。中国でもないし、香港でもない、もちろん台湾とも違う。先日、職場の同僚とマネージャーの就任祝いにマカオを訪れた。目的は当然カジノだった、カジノでは女性が接客していて、少し英語で話を聞くと優子達の10倍のギャラを貰っていて目が飛び出そうになった。優子も同僚のマネージャーになった事で、金銭面の相談も受ける様になった、新人の子が私もマカオで働きたいというのを聞いて、歌舞伎町もやばいなと思った。優子は新人の子には、来月には給料上げるからと説得した。これは本当の話で、マネージャーに打診してきた上司に、皆んなの面倒を見ても良いけど、私がマネージャーをするなら、今の給料をあげてもらわないと了承出来ないと掛け合った。上司も渋々納得、店側とキャバ嬢側の労使交渉は優子が煽りを喰らって解決したのである。優子は入店3ヶ月で、No.1の売り上げる様になっていた。


翔は優子の勤める店の常連客だった、金払いがよく同僚の子も気に入られようと、厚い接客をしていた。優子は高校の時の先輩だとは皆んなには伝えないでいた、翔も優子について話す様子もなく、優子に関わろうとしなかった。しかし、優子の方は翔とは高校の頃から揉めていたので、余り深い関係になりたくなかった。翔は優子がマネージャーに昇進したと聞いて、ドンペリを入れてくれた。優子は有難うございますと言っていたが内心はヒヤヒヤしていた。翔の性格を知っていたので、何か無理なお願いをされないかドキドキしていたのだ。翔の方も優子を引き抜いて、うちの店で雇い、思い通りにしたかったので、優子と腹を割って話をしたかった。しかし翔の方も今のタイミングではない事は分かっていた。翔は同僚の子にちょっかいをかけていた、優子はクロ服の子に合図を送ったが、反応がなかった、後で分かる事だけど翔の息のかかった子だったのである。優子も驚いたけど、まだ入店3ヶ月で分からない事も多かった。その事を上司に相談しても、店長には黙っておけば良いからの一点張りだった。優子は店の子が引き抜かれても知れませんよと叫んだ。翔はそれを見抜いた様に優子にマネージャーの仕事上手くいっていると尋ねてきた。優子はその言葉を無視した、実際に数人の子が店を辞めて他店に引き抜かれていた。翔はこのまま店に居ても面白いことはないよと伝えた。今ならもっと良い条件でうちの店でマネージャーとして働く事ができると伝えた。翔の眼力の迫力に逆らう事ができそうもないと感じて、暫く考えさせて貰って良いですかと答える始末であった。優子は店の子が入れ替わりが激しい理由が理解できた、それと歌舞伎町で生き残るのは大変な事なんだとマネージャーをしてみて理解できた。優子が入店して5ヶ月目の事だった。

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