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21才の夏(16)

優子は結婚して、一男一女に恵まれて、悠々自適な専業主婦の生活を謳歌していた。東京から離れ地元に帰り数年が経とうとしていた。その日も長男を寝かしつけて、長女の保育園のお迎えに行こうと天気が悪かったので、昼のワイドショーで天候を確認しようと、TVを見た時にはっきりと見覚えのある顔が映像として写っていたのである。優子は驚いたが、長女のお迎えがあったので、その場をやり過ごして集合場所に着く間、記憶の断片を整理していたのである。優子は長女を自転車の荷台に取り付けたチェアーに座らせた時に閃くように、あれは大吾に違いないと思ったのである。


ネットニュースで確認すると、尚希が太ももを刺されて傷害事件を起こされている事が分かった。詳しく読むと、怨恨の事件という事が分かる、大吾の動機は翔に若い頃から、適当にあしらわれて、犯罪のカタブを背負わされた。俺もしゃばで生きていく為に我慢したが、何をしても長続きせず、仲間からは翔の事件の事を何度も言われた。最近では頭の中に事件の事がしょっちゅう出てきて苛立っていたんだ。優子は弟の殺害の真相が翔の命令だった事が、あの時に私を尚希がまた助けてくれた時に本当の事が分かって納得している。しかし、この度も大吾の証言は認められずに、翔を立件する事は出来なかった。優子は時間の経過があるけれど、弟の死が解決できない事が悔しかった。尚希もこの傷害事件があった後に夜の世界から足を洗った。優子は尚希に翔の事を最後まで、見届けて如何だったと尚希に聞いた。翔の為に傷害事件まで起こして命を張ったけど彼の生き方を肯定する事は出来ない。自分以外は信頼できずに弟まで殺すなんて考えられないだろう、可哀想な男だ。


優子は尚希に一緒になりたかったのよと伝える、そうなの、綾さんの事好きなの、別に。優子は高校の頃のままだね安心する。私は尚希と居ると安心するんだ。亭主は真面目で良い男だけど、落ち着かなくて。翔は本当に自分の邪魔になる者は消していく男よね、優子も俺も翔には要らない存在だったんだろうな。弟も要らなくなれば殺しちまう男なんだから。優子は今でも翔の言動は許せないって思っているよ。しかし、あんな男でも綾の命綱だからなと尚希はいう。綾は翔が居なくなれば、俺とも別れるだろうな。綾は翔が居るから俺と一緒になったんだよ。翔の為に、優子は何なのそれ、最後に純愛かよ、キモ。翔はきっと最後にとんでもない目に遭うはずよ。それを私は見届けるつもりなの。尚希はどうする、俺は最後はお前だけだから、優子はいつもそれに勘違いさせられるのよねと答えた。(完)

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