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21才の夏(2)

 優子と尚希は同棲を始めた、声を掛けたのは優子の方だった。優子の方が尚希に対してすきな気持ちが強かった。尚希も優子の気持ちは分かっていたけど、女性遊びを繰り返していた。夏にキャンプに行った優子の同僚とも関係が続いていた、同僚の女の子には優子と付き合っていると嘘をついたが、女の子は私も好きな男性がいるからと話した。尚希は何だ、僕と同じ属性がと思って、急に気持ちが萎えた。頭の中には優子と同棲を始めたんだけど俺ら付き合っていないよなという感情が交錯していた。

 優子は夜の仕事を頑張っていた、以前のOLの仕事よりも真面目に取り組んでいる自分に驚いていた。社会的に見るとキャバクラは信頼されていない仕事だけど、優子の性格にはとても相性が良かった。優子は学生の時から友人にいい加減なやつだと言われていたけど、不良みたいにふざけている仲間と居ると安心したし、両親の優しさより、馬鹿な事を言い合えるダメな人と一緒にいる方が自分らしくいられた。店の店長からは優子はこの仕事に向いているから、マネージャーにならないかと誘われていたけど、同僚と気兼ねのない関係性でいられることの方が嬉しかった。都会に出て転職した事が本当に良かったと思った。

 尚希も営業仕事に精を出していた、女性遊びは派手だったが、仕事は誰よりも真剣に打ち込んでいた。月の営業成績も事務所でTOP3には入っていた。先輩からはお前は異性にずるっとしている所があるから、揉め事を起こさない様に気よつけろよとアドバイスされた。うちの会社でも女性関係でクビになった奴がいるからなと付け加えた。そんな話を聞き流しながら、先日の夏祭りで土建屋の友人とナンパした、大学生に連絡を取ろうと必死になっていた。午後から商談があるというのに話す内容も上手くまとめていなかったけど、先日入ってきた新人に全部任せるつもりでいた。先輩からは教育係を任されていたけど、自分の柄じゃなかった。新人も俺と同じタイプで仕事の話をするより女性の話をする方が多かった。

 優子から尚希に電話がある。

 「今日の晩御飯一緒に食べない?、美味しい中華の店見つけたんだ」

 「悪い、仕事で予定が詰まっていて、遅くなりそうなんだ」

 「何時になるの?」

 「商談次第だから、分からない」

 尚希はもう優子には自然に嘘をつく事ができた。心がチクリと痛む時もあったけど、脳内にドーパミンが出て快楽に酔っている自分がいた。

 本当は昼間に連絡した大学生と飲む事が決まっていた。今日一緒に営業した新人と馬が合うので彼も一緒に男女4人で遊ぼうという事になっていた。

 優子は尚希が仕事には真面目だと知っていたので、疑う様な事はしなかったが、彼女にも男性からの誘いは仕事柄多かった。

 尚希の予定が詰まっていたので、店の客と遊ぶことにした。別に好きでもなかったけど、金払いのいい客だった。

 その客は5秒ごとに優子をベッドに誘う様に付き合ってよと呟いた。優子も最初は丁寧に断っていたけど、遊ぶ様な関係になってからはいい加減にしてよという感じで聞き流していた。その客は30代中頃で若い女が好きだった。優子も21才と若く、客の好みだった。IT関係の会社を持っていて、とても羽振りが良く、優子にもうちの会社で働けば今の倍は稼げるぞと優子を誘った。優子はその男性の事を本当に怪しい客と思っていたので、キャバの仕事好きなんですと断っていた。

 尚希にもその客の事を話したけど、金払いいいんでしょ、いい客じゃんと相手にしてくれなかった。優子は私がその客と寝たら尚希はなんて思うんだろ、軽蔑するかなと思ったけど、それは尚希が相手をしてくれないから頭の中が感傷的な気分になっているだけで優子にとってその客は100%、ただの仕事上の付き合いだった。優子はそんな事を考えながら、美味しいはずの中華を食べながらしらけ気分でいた。

 食事中に化粧室に行くと、優子の同僚から電話があった。尚希、今日大学生と遊んでるよと伝えられた。優子は驚かなかった、尚希の事だからいつもの事だった。でも尚希の事が気になったから、スマホに大学生との夜楽しんでとメールを送った。尚希から5秒もしないうちに返事があった。何のこと今、仕事中、もう直ぐ終わるから逢おうとコメントが入った。私は客との食事を御免なさい急用が出来たからと尚希の元に急いだ。

 尚希との約束した場所に行くと、男女3人がいて、お酒が入っていて出来上がっていた。新人の彼が女性を盛り上げようと楽しそうだった。尚希はお酒が飲めないのでしらふだった。優子を見つけると、大学生に俺の連れだから、今一緒に暮らしているんだと説明した。優子も合流してカラオケに行ったけどよく覚えていない。尚希は私のことをほったらかしにして新人の子と大学生とで盛り上がっていた。優子は私一人だけ随分歳をとった様な気がした。でも尚希が私を紹介してくれた事が堪らなく嬉しかった。


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