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旅人の体験をデザインする。 - 柳田國男「旅人の爲に」を読んで -後編-

旅を或一地に到着するだけの事業にしてしまはうとするのは馬鹿げた損である。
- 豆の葉と太陽 -旅人の爲に -

民俗学者の柳田國男の「旅人の爲に」の中に上記の一文があります。
なぜそのような事を述べているのでしょうか。柳田は著書の中で風景について、以下のように述べられています。(以下、引用は全て- 豆の葉と太陽 -旅人の爲に - からの引用となっています。)

風景について

どこでも天然の美を説かずに居ないのを見れば、他の条件が通常である限り、たしかに風景は旅する人を悦ばせ、時と入費とを惜しまぬ気持ちにする力を持っているのである。

風景とは必ずしも原子林野、人に馴れない海川のことではない。我々の同胞が斯上へ、数千年かかつて築き上げたあるものを、それの自分たちの知つて居るのとちがふものを、見てあるきたいのである。

人が旅に出たいと思う一つに「風景」を見たいという思いがあり、風景は天然の美に留まらず、日本の長い歴史の中で培われた各地の生活様式、自分の土地にはない生活も「風景」として旅人は求めているということですね。(引用の中の「他の条件」とは、宿だったり、食事だったり、風景を見るときの環境のことです。)

目的地までの風景を楽しむ

是に対しては鉄道は感謝せられてよい。道路は昔からあり又土地でこしらへるが、汽車は外から来て遠慮なく村を突き抜ける。(中略)とにかく土地土地の生活の諸相を、ほんの一瞬間ながら近々と見て通る。(中略)是が何とも言はれぬ親しみを感ぜしめる。

車窓から流れて行く土地土地の生活様式が垣間見えるのも風景の美しさの一つですよね。つまり、旅は終着点に着くことだけではなく、道中の車窓から眺めることのできる美しい風景を楽しむことも旅の目的の一つだということですよね。小学生の頃、田舎に遊びに行く時はまさに車窓を楽しむことが目的だったように思い出します。

旅人の体験をデザインする

いかがでしたでしょうか。
当たり前のように聞こえる話ですが、今改めて重要なポイントのように感じています。

冒頭の引用に戻りますが、目的地までの道中も含めた「旅人の体験」をデザインすることで、新しい観光スタイル、消費が生まれるかもしれません。

目的地で思う存分楽しむための「効率的な移動」も便利で魅力的な移動の一つだと思いますが、例えば在来線を使った移動は、目的地までをゆっくりと風景を楽しむものとして魅力的ではないかと思います。在来線は街中を走り抜け、沿線の生活をつなぐものなので、新幹線の移動とは違う、風景がより身近に感じる体験を味わうことができます。

そんな旅のお供に「在来線に乗ろう(冊子)」もぜひ。

※(文中、旧仮名遣いを一部現代仮名遣いに修正しました)

Tabinova:ヨウスケ
この記事はTabinovaのサイトに掲載しているものです。https://tabinova.org

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