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コンクワ アイヌ神謡集より
梟の神が自ら歌った謡 コンクワ アイヌ神謡集より
「コンクワ
昔 私の物言う時は 桜皮を巻いた弓の弓把(きゅうは)の央を鳴り渡らす如くに言ったのであったが
今は衰え年老いてしまった事よ。
けれども誰か雄弁で使者としての自信を持ってるものがあったら、天国へ五ツ半の談判を言いつけてやりたいものだ。」と
たがつきのシントコの蓋の上をたたきながら私は言った、
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ところが入口で誰かが
「私をおいて誰が使者として雄弁で自信のあるものがあるでしょう。」というので
見ると鴉(からす)の若者であった。
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私は家に入れて、それから、たがつきのシントコの蓋の上をたたきながら
鴉の若者を使者にたてる為 その談判を云いきかせて 三日たって三つ目の談判を話しながら見ると 鴉の若者は炉縁の後で居眠りをしている、それを見ると、
癪(しゃく)にさわったので鴉の若者を
羽ぐるみ引っぱたいて殺してしまった。
それから又たがつきのシントコの蓋の上をたたきながら
「誰か使者としての自信のあるものがあれば、天国へ五ツ半の談判を言いつけてやりたい。」と言うと、誰かがまた入口へ
「誰が私をおいて、雄弁で
天国へ使者に立つほどのものがありましょう。」というので見ると山のかけすであった。
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家へ入れて それからまた たがつきのシントコの蓋の上をたたきながら 五ツ半の談判を話して
四日たって 四つの用向を言っているうちに
山のかけすは 炉縁の後で居眠りをしている。
私は腹が立って山のかけすを羽ぐるみ引っぱたいて殺してしまった。
それからまた たがつきのシントコの蓋の上をたたきながら、
「誰か雄弁で使者として自信のあるものがあれば、天国へ五ツ半の談判を持たせてやりたい。」と言うと 誰かが
慎(つつしみ)深い態度ではいってきたので見ると
カワガラスの若者、美しい様子で左の座に坐った。
それで私は
たがつきのシントコの蓋の上をたたきながら
五ツ半の用件を 夜でも昼でも言い続けた。
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見れば カワガラスの若者 何も疲れた様子もなく聞いていて 昼と夜を 数えて六日目に 私が言い終わると直ぐに天窓から出て天国へ行ってしまった。
その談判のおおむねは 人間の世界に飢饉があって人間たちは今にも餓死しようとしている。 どういう訳かと見ると 天国に鹿を司る神様と魚を司る神様とが相談して鹿も出さず魚も出さぬことにしたからであったので、
神様たちからどんなに言われても 知らぬ顔をしているので 人間たちは猟に 山へ行っても鹿も無い
魚漁に 川へ行っても魚も無い。
私は それを見て腹が立ったので
鹿の神 魚の神へ使者をたてたのである。
それから幾日もたって
空の方に微かな音がきこえていたが
誰かがはいってきた。 見ると
カワガラスの若者 今は前よりも美しさを増し
勇ましい気品をそなえて 返し談判を述べはじめた。
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天国の鹿の神や魚の神が 今日まで鹿を出さず 魚を出さなかった理由は 人間たちが鹿を捕る時に木で鹿の頭をたたき、皮を剥ぐと鹿の頭をそのまま山の木原に捨てておき、魚をとると腐れ木で魚の頭をたたいて殺すので 鹿どもは 裸で泣きながら鹿の神の許(もと)へ帰り
魚どもは 腐れ木をくわえて魚の神の許へ帰る。
鹿の神 魚の神は 怒って相談をし 鹿を出さず 魚を出さなかったのであった。 が こののち人間たちが鹿でも魚でも ていねいに取り扱うという事なら 鹿も出す 魚も出すであろう と鹿の神と魚の神が言ったという事を詳しく申し立てた。
私はそれを聞いてから カワガラスの若者に賛辞を呈して 見ると本当に 人間たちは鹿や魚を粗末に取り扱ったのであった。
それから 以後は 決してそんな事をしない様に 人間たちに 眠りの時 夢の中に教えてやったら 人間たちも悪かったという事に気が付き それからは 幣(ぬさ)の様に魚をとる道具を美しく作り それで魚をとる。 鹿をとったときは 鹿の頭をきれいに飾って祭る。 それで 魚たちは よろこんで美しい御幣(ごへい)をくわえて魚の神のもとに行き 鹿たちは美しく月代(さかやき)をして鹿の神のもとに立ち帰る。 それを鹿の神や魚の神はよろこんで 沢山 魚を出し 沢山 鹿を出した。
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人間たちは 今はもうなんの困る事もひもじい事もなく暮らしている。
私はそれを見て安心をした。
私は もう年老い 衰え弱ったので 天国へ行こうと 思っていたのだけれども 私が守護している人間の国に 飢饉があって 人間たちが餓死しようとしているのに構わずに行く事が出来ないので これまで居たのだけれども 今はもう 何の気がかりも無いから 最も強い者 若い勇者を私のあとにおき 人間の世を守護させて 今天国へ行く所なのだ。
と 国の守護神なる翁神(梟)が物語って天国へ行きました と。
文: アイヌ神謡集 岩波文庫
知里 幸恵 編訳
絵: たびのくま
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