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「チーム竹島の見果てぬ夢 第4章 レースの興奮と空しさ」

チーム竹島の見果てぬ夢 ・・・これは30年程前に出版された本を加筆訂正し、再録しています。1990年代から始まる日本人選手の世界進出と大躍進のきっかけをつくった「チーム竹島」を助監督として追いかけた遠藤智が書くノンフィクションです。全7章、全7回でアップします。第1章「竹島将の死」 第2章「大きすぎる夢」 第3章「ヨーロッパに」 第4章「レースの興奮と空しさ」 第5章「嘘と憎しみ合いと」 第6章「夢の残がい」 第7章「クレイになれなかった男」。第1章はチームオーナーの死というちょっと重苦しい空気の中で始まりますが、第2章からはチームが活動を開始、第3章ではいよいよヨーロッパラウンドへと旅立っていきます。そして第4章では、スペインのヘレスで、いよいよヨーロッパラウンドがスタートします。


第4章「レースの興奮と空しさ」

「いましかない、ここにしかない、自分しかない」

寒さが増すにつれて、カディスの夜は賑やかさを増していた。マドリッドもそうだったが、スペインの街は夜中の1時から2時頃が賑やかさのピークのような気がする。

夕唯はすでに眠っていた。当たり前だと思った。もう12時になろうとしているのだ。カディスの海岸通りは、若者で一杯だ。海に向かって肩をよせあっている若いカップルの後ろ姿が見えた。

「いいよな。若いって」
「何、言ってんのよ。まだ充分若いじゃない。今日で33になっちゃったけどね。忘れてた?」
妻のその何気ない言葉に、ぼくはハッとした」
「あれぇ、今日何日だっけ?」
「4月30日。もうすぐ5月になっちゃうけどね」
言われるまでぼくは、今日が何日なのかすっかり忘れていた。4月30日は、ぼくの誕生日だった。

「そうか、俺も今日で33歳か」
それを聞いた妻が、思い出したように言う。
「それにしてもとても竹島さんが、同じ年だとは思えないわね」
竹島さんは学生時代に年齢を誤魔化して映画の監督をやったのだと言う。
「竹島は、その頃から実際の年よりは確実にふけて見られていたからな」泉さんのそんな言葉をぼくは思い出していた。

ぼくがいままで生きて来た世界とはまったく違う世界があった。
ヘレスに向かってぼくは車を走らせていた。カディスの街の明かりが全部、ルームミラーの中に集まっていた。


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