CHANELの袋の行方

東京生まれ、東京育ちなのにくるりの東京聞くとそうだよね、そうだよね〜!って思うのなんで?

学生時代のこととかもっと書けたらなぁと思います。

大学生時代4年間はまあほぼほぼ常に水商売していた。学費を稼ぐ必要があったし、東京でちょっといい女してたかったから。

大学一年生の時に、新宿の飲み屋街でママをしていたことがあって。20時もすぎて、帰るまでまだまだかと思った頃に1人ふらーっとお客さんがCHANELの袋を持って入ってきた。見た目は40過ぎくらい、職人をやっているのかなと思わせる服装だった。

いらっしゃいの挨拶もそこそこに、今日はなんの帰りなんですか、と聞くとこれから彼女の誕生日を祝うとのこと。白に黒いフォントの袋の中にはピアスが入ってるんだそうな。わー、いいですねとニコニコお話しているが、このお客さんがまあ帰らない。22時過ぎても帰らない。お誕生日大丈夫ですか?と聞くと、彼女は24時すぎてから仕事が落ち着くとのこと。ここでぴーんときた、彼女ってきっとキャバ嬢だ。新宿某飲み屋街付近で待っている、彼女は誕生日なのに24時過ぎまで仕事している。いや、こりゃキャバ嬢だ。水商売をしてきた私のカンもあるけれど、とっさにそう思った。彼女じゃない、指名しているキャバ嬢がいるんだと。

一瞬にして私の接客スイッチが入る。このお客さんの買ったプレゼントは彼女にとって多分ありふれてて、ありがとうとは言うものの今日のナンバーワンプレゼントにはならないし、今日をどんなに祝ってもきっと付き合えないだろう(どう考えても水商売してる女が付き合う感じの人ではない。少なくとも、新宿、渋谷、銀座で水商売してる女が付き合うタイプの人ではない。これも勘)。

まあ、その代わり私がここでなんとなく今日いい日だったかもと思ってもらいたい。なんならいい気分になったまま、本命の彼女にどんどんお金使ってあげて欲しい。(水商売のよしみを感じたので。)
イケイケドンドン、のめのめドンドン、幸せわけてよう〜!なんて言いながらとにかくその場を盛り上げた。盛り上げすぎた結果、気づけば23時も近くなり、お客さんのテンションはブチ上がりそれなり酔っていた。楽しそうな雰囲気は感染するもので、気づいたら7席のカウンターの店は定員以上の満員御礼だった。

飲んでいた外国人観光客御一行が、回転寿司が食べたいと話し始めた。おそらく職人のおじさんに訳して伝えると、「回転寿司なんて寿司じゃねえ、カウンターで食べさしてやるから!それが本物の寿司なんだよ!」と大騒ぎ。外国人観光客たちは困惑しながら、職人お兄さん(勝手に命名)に連れられて、外に出てしまった。カウンターには、お店全員分のお会計。ありがとう、職人お兄さん。

24時も近くなった頃、外国人観光客御一行が戻ってきた、話を聞くと「ナイスガイが寿司に連れて行ってくれた後に、カラオケに行って気づいたら居なかったんだよ。気づいたら、これを置いて居なくなってたんだ。」とCHANELの袋を差し出す。

連絡しようにも電話番号も名前もなにもしらない。とりあえずこのプレゼントは預かっておくと伝えて落ち着いた。職人お兄さん、今日大事な日なんでしょ、と思いながらその日は帰った。

2ヶ月後、19時に開店して、タバコ吸いながらお客さんを待っているとあの職人お兄さんがやってきた。
俺のこと覚えてますかとはにかむから、覚えてるに決まってるじゃん!プレゼント渡せた?と聞くと「本当は渡したくなかったのかも知れません。」と言ってへらへら笑っていた。

その瞬間ぎゅっとした。自分自身が水商売をしている間、ずっと割り切ってきた。これは仕事、喜んだ顔して、欲しくないものでも笑顔で受け取って、これは仕事だよ、これは仕事だよーって思って働いてきた。死ぬほど嫌な思いもしたし、大人に心底がっかりすることもあった。
でもお客さん全員が全員馬鹿じゃないのだ。
職人お兄さんは自身が本命キャバ嬢ちゃんにとって彼氏じゃないことを本当は充分わかっていたのだ。
誕生日(イベント)に行って、自分と同じようなお客さんを見て、傷つくことを恐れていたのではないか。自分が特別に思われてるなんて少しでも思っていることが知られることも、恥ずかしかったのではないだろうか。

急に私を職人お兄さん越し、昔のお客さん全員を見下していた私を、見た気がして気持ちがシャキッとした。そういう時、無駄に飲んじゃうよね〜なんて言ってあの日のこととはまーったく関係ない話をした。それから1度も職人お兄さんは来なかった。余計なこと言わずに楽しい時間を楽しいままで終わらせてくれた彼は、私にとっても完璧なお客さんであった。
あの日出前してくれた中華、美味しかったよ。職人お兄さん。お兄さんはお客さんの鑑だよ。って今度会えたら言いたいよ。

この前、駅前でお客さんらしき人に駅まで送られて「大丈夫!本当に大丈夫!今日はありがとね〜!これから予定あるからここで大丈夫だよ〜!」って70点の笑顔してたキャバ嬢らしきお姉さん、お客さんが見えなくなった瞬間電話し出して「無理、もう無理だよ。早く会いたい、迎えに来て?」って泣きそうになってた。わかるわかるよ〜なんて思いながら終電ギリギリの電車のために私は少し走った。

#エッセイ #お客さん日記

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