好きです、推理小説

「卒業式」をお題にした前回!
青春でしたねぇ(笑)
ラブコメというよりは普通にラブストーリーだとは思いますが。甘酸っぱさは十分に伝わった!!
私はボタンを貰った事は無かったけれど。記念にもぎ取って回れば良かったかなとか、ちょっと考えましたよね。素直な文書、好きですよ!!

さて、私もうっかりまた遅くなってしまった……。卒業式ならぬ卒園式やら何やらがね……そのね……あってね……(言い訳)


はい!ごめんね!!!


ってことで、卒園式が終わってから考えてたもんだから時間かけちまったけど、私のお題もクリアしましょう!!



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お題・ミステリー



「哀しい事件だった」
汽車に揺られ乍溢したその台詞に眼前の友人は嫌な表情を浮かべた。叱責するでも無く、苦言を呈するでも無く、静かな儘。
「何だ、その顔は」
尋ねる私を見て漸く口を開いた彼は、短く、
「莫迦だね」
と呟いた。
「莫迦だと」
「莫迦も莫迦だ。哀しい事件?君はあの事件の本質が何も見えちゃあいない」
「本質?本質とはなんだ。連続殺人事件の犯人が自殺して事件はお仕舞。残されたのは若い未亡人が一人。此れを哀しい事件だと云わず何と云う」
「君は、本当に、彼が犯人だと思うのかね」
煙草を一本咥え、友人は視線を窓の外へと遣る。擦れた燐の薫りが鼻を擽った。
「遺書が有った」
「其れだけだ」
「偽装だとでも?」
「其れ以外何がある」
そう云ったきり再び黙り込んだ友人は、窓の外を流れる山桜を眺めている様だった。渓谷に汽笛が鳴り響く。大きく車体を揺らした汽車が速度を上げた。
「教えてくれ、お前は何を知っている?」
「……何も」
友人が煙草の灰を落とす。虚ろな視線がゆっくりと此方を向いた。友人は少し──其れは長い付き合いの私でさえ見落してしまいそうな程に僅かな変化ではあったのだが──腹を立てて居る様に見えた。それでも揺れる事無く真っ直ぐに向けられた視線は、其の怒りの矛先が私に向いていない事を察するには十分な物であった。視線だけを交わして、私達は沈黙した。止まぬ好奇心に、私が質問を投げ掛けようとした刹那、
「彼の屋敷の主人を君は如何見た」
唐突に口を開いた友人がそう尋ねた。
「真面目な人だと思ったが……」
と私は応える。
「為らば、分かるだろう」
「何がだ」
「察しの悪い。君は、あの茶室を見て、何も思わなかったのかね」
屋敷を訪れた初日、にじり口から覗いた茶室を私は必死に思い出す。記憶の中の茶室を見回して、それでも首を傾ぐ私に友人が溜息を溢した。
「取り立てて何を語るでも無い、ただの茶室では無かったのか……何も無かっただろう」
「そうだ、何も無かった。何も無かったんだよ」
友人が煙草の吸口を指先でトンと弾く。
「何が云いたい」
「……無かったんだ。床に在るべき花が、ひとつも」
「花?」
「茶室だけじゃない。あの広大な庭にも花を付ける草木は一本も無かった。不自然な程に。あの苔庭は見事な物だったけれどね」
友人が呆と天を仰ぐ。様々な緑に覆われた、あの庭を思い出しているのだろうか。
「花が無いと、いけないのか」
「いけないね。床の花は必要な物だ。茶室に於いて唯一命ある物が茶花なのだ。風情や季節を感じさせ、命や時を考えさせる。大事な作法だよ」
「主人は何故、その茶花を生けなかったんだ」
「生けられなかったのさ。主人は、花を好まない。嫌っている。否、恐いのか……」
「花が恐い?花の何が恐いのだ。噛み付くわけでもあるまいに」
「理解せずとも良いが、否定する物では無いだろう」
私を叱る様に友人が云う。
「人の恐怖心は様々だ。高い所が恐いのだと云う者に柵が有るのだから落ちやしないと云うのか?そういう事では無いだろう」
私はひとつ頷く。
 私がこの友人に抱く怖れを誰が理解せずとも良いのだ。こうして共に旅をし、隣を歩き、言葉を交わし、其れで尚この友人を恐るる私の心を誰かが否定しなければ良い。理解など求めては居ないのだ。事実だけが其処には在るのだから。正に、と私はもう一度頷く。
「何やら合点がいった様だが……」
呟く友人に私は曖昧な笑みを返す。友人は其れ以上何も言わず、小さく溜息だけを溢して話を戻した。
「潔癖な迄に避けられた花花、山桜の開花の話題にさえ席を外し、奥方の着物にさえ口を出す。本人に自覚が有ったかはさて置き、あれは立派な恐怖症さ」
「あぁ、婦人が着物を着替えさせられた時の事かい……そう言えば、あの着物は」
「燕子花が織り込まれていた」
友人の観察眼に胸中で賞賛を送り乍、私は次の問いを投げ掛ける。
「花が恐いとしても、だ。彼が犯人では無いと何故言い切れる」
「君は主人の死体を見た筈だ。彼の死体は何処に在った」
「棺桶を模した箱の中だ」
「その棺桶には?」
「……花が敷き詰められていた」
「棺桶の中に花が在った所で不自然さは無い。だが主人があの箱を用意した所で花の中に埋まって自死する事は出来ないよ」
短くなった煙草を灰皿へ押し付けて友人は窓に凭れ掛かる。
「真犯人は、どうして主人を花の中に埋もれさせたんだ。彼が花に恐怖心を抱いていた事を知らなかったのか」
「知っていたのかもしれない。だが、僕達や警察がそれに気付いていない事に賭けたのだろう。主人の死体のシャツを見たか。彼のシャツは黄色い花粉で所々黄色く染まっていた。彼が殺された時、真犯人の手に付着していた物が移ってしまったのだろう。花のないあの屋敷の中で、花粉で手を汚す者は居ない。居たとするならば、それは屋敷の外へ出た者か屋敷の外から来た者だ」
「それは……」
口を開いた私に肯いて、友人は続ける。
「僕達があの屋敷に滞在していた間に屋敷の外へ出たのは奥方だけだ。隣家の女主人に茶会に呼ばれたと出掛けていった」
「それが彼女のアリバイだった筈だ!」
自然と大きくなる声に、友人が人差し指を立てる。辺りを見回して私は頭を垂れた。
「女主人が奥方の犯行に加担していたなら、アリバイ等成立しない」
「なんだと」
「そもそも、華奢なあの奥方が一人で主人を手に掛ける事も運ぶ事も難しい。共犯者が居て然るべきだろう。出掛けた振りをして、屋敷内で主人を殺し、夕刻に帰った振りをする。そしてそのアリバイを共犯者たる女主人が証明する。単純な話、だが堅いアリバイさ。ところがだ、主人の死体を我々に晒そうという時に、奥方はあの花粉に気が付いた。奥方か、女主人か、何方があの主人を花粉に汚したのかは然程問題ではない。だが、奥方は焦っただろうね。しかし死後硬直の始まった主人のシャツを脱がす事はもう出来なかった。花粉に汚れたシャツの不自然さを隠す為に、婦人は仕方なく棺桶に花を敷きつめた。幸いにも隣家には立派な花庭園がある。薔薇も百合も鬱金香も幾らでも咲いている。共犯者の屋敷の庭から花を拝借するなど訳無いさ」
「嗚呼」
溢れた感嘆に友人が溜息を吐いた。彼の吐息で白く曇った硝子の向こうには桜が散っている。踊る様に。舞う様に。
「哀しい物かよ。女狐共は今頃哂ってお茶でも飲んでいるさ」
吐き捨てる様に呟いた友人は、そうしてそっと瞼を閉じた。

*************


み………………みすてりぃ………。
今回は敢えて此処で多くは語るまい……。


次のお題は……そうだなぁ。
「桜ソング」でいきましょう!
文章でも歌詞を考えるでも、詩になってもOKですよ。ではでは、次の回答を楽しみにしております!


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