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『へんしん不要』試し読み(1) 「元気?」と聞かれるとちょっと困る

餅井アンナ『へんしん不要』10/22発売に先駆けて、試し読みを公開します。今日は最初の一編です!

「元気?」と聞かれるとちょっと困る
二〇一八年 三月

 こんにちは、調子はどうですか。挨拶代わりに「元気ですか」と聞かれると、ちょっと言葉に詰まってしまう。私はもうずっとそんな感じです。だから、ここでは元気の有無は聞かないことにします。元気があってもなくても、調子が良くても悪くても、あなたがこのお便りを読んでくれていることが嬉しい。今お便りを開いているそこは、どんな場所ですか? 自分のお部屋でしょうか。飲み物を出してくれるようなお店でしょうか。それとも、何か乗り物の中でしょうか。どこであっても、そこが居心地の良い場所であったらいいなと思います。ちなみに私はこのお便りを、散らかった部屋の、さらに散らかったベッドの上で書いています。

 急に暖かくなったり寒さが戻ってきたり、忙しない日が続きますね。冬の間は寒さにやられて鬱々としていたものですが、季節が変わったら変わったで、今度は春先特有の不安定な感じにやられてしまう。気温の上がり下がりに体調を左右されるのもしんどいし、時折ワーッと心をかき乱してくる「とくに根拠のない焦り」、これは一体なんなのでしょう。できることならもっと上手に四季と付き合いたい。思い返せば、冬は気持ちが落ち込んで籠りがちになるし、春は春でそわそわして落ち着かない。梅雨どきは低気圧に押し潰されて動けないし、夏の盛りは体温調節がうまくいかなくてぐったりしてしまう。台風がぽこぽこ生まれ始めるともう全然だめで、秋がきて空気の匂いが変わると、心臓がキュッとして「もう勘弁してください」と泣き出したくなる。四季折々の不調に翻弄され、一年を通して元気なときがない。そんな状態がもう四、五年ほど続いています。お分かりかと思いますが、情緒もだいぶ不安定です。

 今は知り合いの会社から作業をもらったり、アルバイトで日銭を稼いだりしながら、家で書き物の仕事をしています。だいたい週のうち四日くらいは寝込んでいる有様なので、会社に勤めている人と比べたら全然働けていません。雨が降ると寝込み、気圧が下がると寝込み、つらいことがあっても寝込み、電車に乗ったり、人の多い場所に行ったりしても寝込む。なので家ではだいたい、ベッドの上でリポビタンDなどを舐めながらキーボードをポチ……ポチ……と打つことになります(今がまさにそれ)。
 そもそも外へ出かける試みが成功することも稀で、だいたいは朝布団から出られなかったり、シャワーを浴びようとして浴びられなかったり、外出という行為に対する緊張から激しめの動悸に襲われたりして、途中で挫折することが多いです。運よく家を出られても、駅の人混みで動けなくなったり、電車を途中下車したりして、「すみません」と謝罪のメッセージを送るはめになる。間違いなく会社員にはなれない人材です。大学を周回遅れで卒業して一年、私はいまだに実家からの仕送りをもらいつつ、このように不安定な暮らしを送っています。

 これが病気なのか体質なのか性格なのか、はっきりとしたことは分かりません。たしかに一種の病み上がり状態ではあるのですが(これについては追い追い書きますね)、じゃあこれがいつか完全に良くなるのかと言われればならない気がするし、自分がその状態を異常だと感じているかと言われればそういうわけでもない。もう調子が悪いのが普通というか、色々な要素が溶け合った結果の「こういう感じ」なんだろうなぁと思っています。歯がゆかったりしんどかったりもするけれど、「こういう感じ」なりにどうにかやっていくしかない。全然胸は張れないし、多くの場合はお布団に這いつくばっているんですけど……。

 直接会って楽しくお話ができたらいいけれど、私にはあまり元気が足りていない。だからこれから毎月、お便りで近況をお伝えしようと思っています。基本的に家の中で体調を崩したり、精神の安定を欠いたりしているだけなので、あまり面白いものではないかもしれません。全然エキサイティングではないし、どちらかと言えばかなりダウナーです。さらに、頭の容量がいっぱいになってしまったときや、へとへとに疲れきってしまったときには、すみませんがお休みします。
 年がら年中このような調子ですが、どうにか腐らずに暮らしていくつもりですので、お天気が良くないときや元気の少ないとき、夜中にうまく寝付けないときなど、少しの暇つぶしと気休めになれば幸いです。それでは。

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