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イ・ランのHDD 『私が30代になった』刊行記念トークより

今年の5月、『私が30代になった』刊行を記念して著者イ・ランのトークベントを行った。イ・ランさんは韓国のミュージシャン、映像作家、作家、漫画家、いろいろな顔を持つ、日本でも注目のアーティスト。トークをするにあたって内容を打ち合わせたとき彼女から出てきたのは「いつも同じようなことを聞かれる、どうやったらあなたみたいになれるか」「サラッと作ってるみたいに見られるけど、私は24時間ずっと仕事のこと考えてるんです!」。そう、自分らしくありのままに自然とかっこいいものができる、なんてことはない、というのはとても共感した。そこでトークでは、これまで彼女が制作してきた作品の制作過程を保存した、外付けハードディスクドライブを持ち込んでそれをなんでも見せる、という内容になった。今回の「時間問題」のきっかけともなった、トークの一部をお届けします。

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脳は覚えておく容量に限界があるので
脳の外に記録している

イ・ラン(以下イ) アンニョンハセヨ。お会いできてうれしいです。今日はハン様と一緒にトークをやっていきます。今日はみなさんここに来た理由があると思います。なのでみなさんの質問に、イ・ラン本体と、イ・ランの外付けハードディスク(HDD)がお答えします。今日は最初からみなさんに質問をもらって、それに答えていく形で進めたいです。

ハン・トンヒョン(司会・通訳、以下ハン) 見えますか? これ実際に外付けハードディスクにつないでいてタイトルずらっと出てるんですけど、中を見てみたいっていうフォルダとかあったら見せてくれるそうです。仕事のフォルダがこれほど整理されてる人もそういないと思って、私自身はそこに興味を持っているのですが(笑)。こういうのってどういう時に見る?

イ 見ないです。

ハン 見ないんだ(笑)。

イ 仕事をしているイ・ランっていうのがいて、仕事が終わったら次の仕事をまたしないといけなかったりして、その時に何かを考えなきゃいけないんですけど、そういう時に全部記憶しておくことはできないから、たとえばこういうものを見て、考えたり、思い出したり、みたいな感じです。自分の脳は覚えておく容量に限界があるので、記録しているものは脳の外、外付けハードディスクみたいなものですね。3分の曲は3分で作れるんじゃなくて、1年のメモの中で3分の曲を取る感じです。ひとりで作るときは「作りましょう」って感じじゃなくて、寂しいから弾いたり歌ったりしゃべったりするので、その中でなにを作るかはあとで平気になったイ・ランがイ・ランの仕事を作ります。だから、やるときはあまり意識をしなくて。「ヨンヨンスン」(注・曲名)の一番最初の(アイディアの)種もこの中から探すことができます。この中でまだ曲になってないものがたくさんあるから、アイディアがなくなったらここから探したりしてます。

ハン じゃあ失くしたら大変だよね、ハードディスク。

イ 実は去年壊れて。繋いだら全部消えてたっていうやばかった事件があって。どうすればいいのかってインターネットで探して、韓国のセウォル号の事件の時に海の中から見つかった携帯を復元した会社が一つあって、その会社が復元できなかった携帯を復元した会社を探して、そのえらいところに行って復元してもらったらすごくお金かかりました(笑)。

(ハードディスクに入ってる歌声を聞きながら)全部即興です。即興でその時自分が何を歌うのかもわからなくて忘れるから、動画の最初に自分が弾くコードを見せます、カメラに。あとのランちゃんに教えるために(笑)。D、F、Gだよってあとの自分に教えて。ちょっと自分から離して放っておく時間が必要っていうか、そうした方がいいのでそうしています。あ、これほとんど泣いたあとに撮ったから、顔がパンパンになってて(笑)。

ハン こういうのを見せるのは嫌ではないの?

イ 全然大丈夫です。働いてるイ・ランと、プライベートのイ・ランは別のものなので、ここでいま見せているのは仕事をするイ・ランのためのための材料でしかないので、別に見せることは何も感じません。

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