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私の話 5

 小田急線刺傷事件が起こってから、女性が女性であるだけで刺されることに怒り、性別を理由に女性が狙われた事件を「フェミサイドではない」と否定する声に怒り、私は行動を起こしてきました。駅にポストイットを貼り、デモに行き、勉強会に行き、署名キャンペーンを立ち上げ、記者会見を開き、内閣府に要望書を提出しました。この社会でフェミサイド未遂事件が起こったこと、そしてフェミサイドを生む社会に対して行動を起こしたことが、忘れ去られ、なかったことにならないために、私は運動を記録したZINE『フェミサイドは、ある』を書きました。

もくじ
まだ知らなかった日
ポストイット・テロリスト
フェミサイドは、ある
要望書を作る
#小田急フェミサイドに抗議します デモ
「私たち」とは誰か?
1ヶ月後の #小田急フェミサイドに抗議します デモ
南米の反フェミサイド運動
運動には人とお金と時間が必要だ
大学生たちが記者会見をする
内閣府男女共同参画局長に署名を提出する
おわりに

Contentsより

 『反「女性差別カルチャー」読本』を生んだレーベルgasi editorialの第2弾として発売されました。事件から1年が経った今、記憶が風化しないように、関心がなくならないように、ずっと抵抗していくために一緒に読んでほしいです。

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私の話 5

 2022年8月6日、小田急線事件からちょうど1年後のこの日に「フェミサイドのない日本を実現する会」としてスタンディングデモを企画した。女性に対する憎悪と差別から起きた事件のことを忘れないように、「フェミサイドなんてない」という声によってフェミサイドがなかったことにされないように、そして「フェミサイドを許さない」という決意を再確認するために、集まる場を作った。

 だけど不安があった。デモの企画なんて初めてやるということだけじゃなくて、嫌がらせやヘイトの心配があった。実際、去年の事件から1ヶ月後のデモでは、嫌がらせ目的でデモ参加者を盗撮していた男性が数人いて、そのうちの一人は警察に連れて行かれたことがあった。そして最近、“女性の安全”という名目でトランスジェンダー(特にトランス女性)に対するヘイトがツイッターを中心にものすごい勢いで蔓延っている。そんな中で「フェミサイドのない日本を実現する会」としてやろうとするスタンディングデモは、暴力や差別のない安全な場でなければいけないとすごく思っていた。絶対的な安全なんてないけど、それでもデモ参加者に対して危害が加えられたり、参加者のスピーチでトランスヘイトの内容が話されたりしてはいけないと思った。デモの場をより安全な場所(セーファースペース)にするために私ができることを考えて実行した。

 まず、デモの告知に気をつけた。最初から誰が見るかわからないツイッターで発信するのではなく、先に自分の知り合いや関心のありそうな人たちに直接コンタクトを取って参加を募った。告知はChange.orgのキャンペーンページからすることにした。あまりにも早くからお知らせすると、拡散しすぎて嫌がらせをしたい人にまで届いてしまうかもしれないので、デモ3日前にした。ツイッターに投稿する前に、私をフォローしているアカウントの中で、直接嫌がらせしにくる可能性のあるアンチアカウントを予めブロックした。改めて自分のフォロワーを見てみると、たぶんフェミニズムが嫌いだろうになぜわざわざフォローしているんだろう?というアカウントがいくつもあって不思議だった。

 そして、トランスアライであることの表明と、ヘイト禁止を明記した。「女性に対する暴力」というテーマで集まろうとすると、”女性の安全”を盾にトランス女性を差別をする人も来てしまう可能性があった。デモにはトランス女性も来ることを想定して私は場を作ろうと思った。だからあらかじめツイッターで注意事項として、トランスジェンダー差別、ホモフォビア、セックスワーカー差別、ホームレス差別、外国人差別などのヘイトスピーチとヘイトプラカードを禁止することを明記した。告知するアカウントにはトランスフラッグの絵文字をつけた。当日も、デモ開始前にヘイトは禁止、嫌がらせは通報するなどの注意事項を読み上げた。

 また、話したい人が話すという形式のデモだとより権力を持つ人、例えば男性がマイクを占有してしまう可能性も考えていた。だからより声を拾われにくい人にマイクが渡るように司会をしようと決めていた。

 安全なデモをすることが何より大事だった。フェミサイドという、安全の反対にある脅威に抗議する場は、安全でなければいけなかった。

 あまり人が多く来すぎてコントロールできなくなったらどうしようと心配していた。だけど当日、小規模ですごく安全なデモができた。嫌がらせもヘイトもなく、無事に集まって話をすることができた。参加者には女性も男性もいた。男性たちは、司会の私が何も言わなくても、女性たちがマイクを持って話すのをじっと聞いていた。話したい女性が話し終え、「もう話したい人がいなければデモを終わります」と言ったあたりで、やっと男性たちは話し始めた。かれらはきっと、このデモの場で話すべきなのは女性たちだと考えて、待っていたんだろう。その姿勢も印象的だった。すごく安全なデモができた。それが良かった。

 この安全の範囲を、本当はもっと広げたい。本当はマジョリティの女性だけではなくて、トランス女性や、セックスワーカーの女性や、野宿者の女性や、外国人の女性がふつうに来れるような場が理想だ。彼女たちがふつうに来ても、そこに居ても、話をしても差別されないことが保証されているような安全な場が理想だ。来年も記憶を繋いでいくためにたぶんまたデモをすると思うけど、そのときは今年より安全な場を作りたい。

 デモの様子は参加者の人に手伝ってもらってインスタライブでも配信した。アーカイブ映像はこちらから。


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