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世の中の動きと、自己の制作と働き方を振り返る/松本美枝子(仕事文脈vol.17)

 2012年12月26日、先の長期政権が発足した日。その頃の私はと言えば、茨城県水戸市に住む、フリーランスの写真家だった。
 その数年前に、美学美術史を大学で学んだのち新卒で29歳まで働いた、とある財団法人での学芸員職を辞めて独立してから、「写真家」という肩書きに当てはまる以外の仕事はしないようにしていた。写真家と言っても、写真集を2冊出しただけで、ときどき雑誌や美術館での撮影をしてはいたが、水戸在住のペーペーのカメラマンを、わざわざ都内の仕事に呼ぶような案件はとても少なく、家賃を払うのが精一杯。2週間に一度くらいしか仕事がない日々も、ざらにあった。どうやって生きのびていたのか、よく思い出せないのだが、はっきりしていることは、貯金をとり崩した後、金が足りない時は、常に親から借りていたのである。
 他に何か、なんでもいいからアルバイトでもやればよかったのだが、一切やらなかった。なぜやらなかったのか?というと、それなりの理由を説明することはできそうだけど、ありていに言えば、美術に関連すること以外、どんな仕事も、私には、きっとできなかったと思う。だって私は学生時代ですら、ほとんどバイトをしたこともなかったのだ。
 つまりは美学を専攻し、学芸員から写真家に転向したという、妙なプライドだけが足元を支えている、頭でっかちの、貧しいフリーランサーだったのだ。

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