見出し画像

6.脱コルセット運動は具体的な文脈の上にある/キム・セヨン

脱コルセット運動は具体的な文脈の上にある。

탈코르셋 운동은 구체적 맥락 위에 위치한다.

イ・ミンギョン『脱コルセット 到来した想像』 第10章「分裂から統合へ」より

***

 私が大学に入学したのは、ちょうど「テンジャンニョ」(味噌女)という言葉が流行り出した時期だった。この言葉の由来については諸説あるが、「똥인지 된장인지도 모른다」(ミソもクソもわからない。いいものと悪いものの区別もできないほど愚かな人を指す言葉)という慣用句から来たという説がある。片手にはスタバのコーヒーを、もう片手にはブランドバッグを持ち、厚化粧をしてピンヒールを履いた、ニューヨーカー気取りの若い女。これが典型的なテンジャンニョのイメージだった。テンジャンニョの意味をネットで調べると「西洋文化に憧れており、経済的な能力が無いにも関わらず、贅沢な消費を好む女性」と出てくるが、実際経済力があるかどうかなどはどうでもよかった。スタバのコーヒーを飲む女は、派手な化粧をした女は、ブランドバッグを持ち歩く女は、みんなテンジャンニョと呼ばれた。

 そんな中、テンジャンニョと呼ばれそうな、つまり男ウケの悪そうな派手な服装をあえて選ぶ人たちも現れ始めた。実は、私もその中の一人だった。テンジャンニョという言葉は、好きな格好をして好きなメイクをする女に対する恐怖から生まれたものだと思った。誰に何を言われようが私は気にしないぞ、という一種の意思表明として化粧をした。「着飾り労働」そのものであるリップスティックとピンヒールが、当時は自分がフェミニストであることを表現する道具として使われていた。今思えば奇妙な話だが、その時は、自分が女性だけに課せられる着飾り労働をしているとは全く思っていなかった。

 脱コルセット運動に拒否感を抱く女性も少なくない理由は、このギャップにあるのかもしれない。わずか10年くらいで多くのことが変わったから。脱コルセット運動の初期は「だから何がしたいの?男になりたいだけなんじゃないの?」という疑問の声もたくさんあった。好きなだけ着飾ることがフェミニズムの実践だった時代があったのは事実だ。だが、脱コルセット運動が炎のように一気に盛り上がって多くの女性の価値観を変えつつある今、「昔はこれが正解だった」と言う主張はあまり意味を持たない。

 数年前、韓国のある制服メーカーが、女子用ブレザーに「ティント専用ポケット」を追加したと宣伝したのを覚えている。インスタを開くと「キッズビューティークラス」の広告と、加工アプリでメイク効果をかけた赤ちゃんの写真が流れてきた。YouTubeのおすすめ動画に出てきたアイドルサバイバル番組では中学生くらいの女の子が網タイツを履いて踊っていた。これが当たり前でいいのか。脱コルセットという概念に出会うまでは、フェミニストを名乗りながらも、問題意識どころか認識さえしていなかった。

図1

制服の「ティント専用ポケット」。CHOSUN EDU、「女子生徒の『赤い唇』・『ライン』を守ると言う制服メーカー」(http://edu.chosun.com/site/data/html_dir/2018/02/20/2018022001101.html、2018.02.20)より

 周りの評価から完全に自由になって、ありのままの自分を認めて、そのありのままの状態が自分の「デフォルト値」なのだと自覚する経験は、フェミニズムを実践しようとしている女性にとってとても重要な通過点だ。脱コルセットがいきなり登場したのではなく具体的な文脈の上にあって、これ以上目を背けてはいけないという証拠は、今まで気づかなかっただけで私たちの周りにいくらでもある。女性ではなく「人間」としての自分を受け入れる感覚をしっかり覚えておいて、この大事な選択肢を次の世代に伝えることは、ある意味義務であるとも言えるだろう。

キム・セヨン 
韓国・ソウル生まれ。梨花女子大学と同大学院で生物学を学び、日本のエンジニアリング会社でエンジニアとして勤務した。梨花女子大学通訳翻訳大学院修士課程卒業。


お読みいただきありがとうございます。サポートいただけましたら、記事制作やライターさんへのお礼に使わせていただきます!