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小説 C、V、E /兼桝綾 (仕事文脈vol.14)

 真鳥の仕事は早かった。しかも正確だ。だから事務センターで他の新入社員が、書類をスキャンし続けたり、スキャンが終わった書類をダンボール箱につめて右から左へ動かしたり、派遣社員達の人間関係の争い事に巻き込まれたりしている間に、一人だけ個別のデスクとPCを与えられるのも当然のことだった。何しろ同期入社の社員の中には、まともにテンキー入力も出来ないものもいたのだ。真鳥は某国立大学を優秀な成績で卒業し、しかも社会人に必要と思われる一通りのPCスキルを身に付けた状態で入社してきた。真鳥は毎日事務センターの第四区画に出勤すると、区画全体を見渡せる位置のデスクに座ってPCを立ち上げ、ソフトを起動する。そして画面左にあらわれるスキャンされた書類―顔写真と個別の十三桁の番号が記されている―の画像と、画面右にあらわれる数字を紐付ける作業に従事した。バッチごとにおおよそ100件から120件ほど表示される数字列の中から、画像に記載された十三桁の番号と同じものを探し出すのは骨が折れた。しかし真鳥はなにしろ優秀だったので、類い稀なる集中力でこの単純作業に対する適正を身に付け、業務がはじまって一週間もたつと、「紐付けるべき数字が少し光って見える」という域にまで達した。

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