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親/子の影響#1 (仕事文脈vol.20)

年齢やライフステージで変化する親と子の関係。だが、サブスクやSNSが行き渡り、カルチャー的なアーカイヴもコミュニケーションもフラット化している近年では、同じアイドルを推したりアニメを観たり、従来の「親子関係」とは違った関わり方も散見される。オタク第一・第二世代と呼ばれるアニメや特撮に親しんだ幼少期を送り、バブル期を体験し、消費によるアイデンティファイを迫られ、サブカルに親しんできた世代を親に持つ、現在20代の方々に、趣味や生活、仕事といった面で、親と子それぞれが与え合っている影響について語っていただいた。(取材・構成:丹野未雪)

#1 ZINE、北欧インテリア、警鐘を鳴らす書……モノを通じて生存報告をする 椋本湧也さん(27歳)

―― 椋本さんが2021年8月に自費出版したエッセイ集『26歳計画』が翌々月には重版を重ね、話題になっています。母校にも収蔵されたとか。親の反応はどうだったんですか?

椋本 「なにこれ?」「こんなの作ってるんだ」と(笑)。もともと反応が薄い両親なんですよ。

―― 制作のきっかけになったのが、親の本棚から拝借した本だと聞きました。

椋本 『26歳計画』の直接のコンセプトは沢木耕太郎の『深夜特急』なのですが、さらにその根っこには父親の本棚から勝手に持ち出した、寺山修司の『家出のすすめ』があります。「ある日、突然に、いままでの自分の人生航路から(他人に決められた航路から)脱線すべき」という。僕は幼稚園の頃からずっとサッカーをやっていて、平日も土日もサッカー、寝てご飯食べるために家に帰るという生活を送っていて。親は僕にサッカー選手になってほしかったんだと思うんです。父はサッカーがすごく好きで、中学から高校までやっていたらしい。ヨーロッパのサッカーもよく観てたし、「Number」「サッカーダイジェスト」「サッカーキング」とか、雑誌も家にたくさんあるんですよ。ところが僕、高校1年のときは全国に行ったんですが、自分の代のときに東京予選で負けちゃって。

―― かなりのところまでいってたんですね。

椋本 燃え尽きまして(笑)サッカーをやめたんです。わりと家にいる時間ができて、父親の部屋にある大きい本棚を物色していたんですよね。寺山修司のことも名前すら知らなかったんですけど、そこで『家出のすすめ』っていう言葉がなんかひっかかったんですよね。あと、その時もう一つ見つけたのが荻上直子監督の映画「かもめ食堂」のDVD。これは今の北欧インテリアの仕事につながっています。当時父親が働いていたインテリア会社が関わっているというのを母親から聞いて、ちょっと観てみようかなと。そしたら、フィンランドの空気感がバチバチに当時の僕に響いたんです。それで北欧へ一人旅して。

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実は2冊本棚にあった『家出のすすめ』。1 冊は椋本さんの元に、もう1冊は大学時代好きだった子の元にある

――「かもめ食堂」は、日本人女性が移住する話でもありますよね。寺山をエンジンにしてフィンランドへ向かうという感じ。そうした行動に一役買っていたということを親は知っていたんですか?

椋本 勝手に持っていって読んでるので、絶対気づいてるはずなんですよ。でも特に何も言ってこない。

――「あの本持って行った? 面白かった?」とか、声かけたりしない?

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