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虹色眼鏡/チサ 第4回 人間になりたい猫、海辺の町に行く (仕事文脈vol.12)
雪解けの水が地面を這う音が聞こえる頃、黒猫は人間になりたくて、海のある町に引っ越した。
家から数キロ歩くと磯の匂いがして、波が防波堤を打つ音が聞こえる。たまに暇な時に海に来て、フェンスを越えて海に身を乗り出して、人生について考えたりする。そこまで綺麗なわけじゃない海でも、少しだけ救いになったりするもので。
日付の変わる頃、メトロの駅で疲れた足を休めるためにベンチに座っていると、実に多くの人間が小さな箱に詰められて運ばれていくのを見ることになった。目一杯に詰めた電車1つできっと村が1つできる。村が1つそのままレールに乗って運ばれていく様子ははたから見ればとても変だ。室内は酸素が薄く、乗客はみなそれぞれの目を合わせないように下を向く。黒猫は、戸のガラスに寄りかかる人達の目を戸の外から1つ1つみた。
夜の湿った空気に当てられて、黒猫はその夜風邪を引いた。鼻をすんすんとすすり、キッチンに立った。お粥が食べたかった。
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