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【連載】虹色眼鏡 第15回「君は雨を見たことがあるか」チサ/さようならアーティスト(仕事文脈vol.23)

ロンドンに来て間も無くの頃は、拙い語学をもう少し高い水準まで習得するために、毎日公園などに出向いてはランダムに他人に話しかけていたが、それもしばらくすると他人の境界に踏み入れるという行為に必要な勇気を出し続けるのにも疲れ、2ヶ月が過ぎる頃には一歩も部屋の外に出られ無くなっていた。ホステルの人たちとも初めの頃は毎日話をしていたけれど、私はだんだんと笑顔を浮かべることが少なくなって、怒りっぽくなった。何か話をしようとするたびに悲しい気持ちに包まれてしまい、悲しいような戸惑ったような笑いでやり過ごすことが増えた。私はみんなに伝えたいことも話したいこともたくさんあるのに、話したい言葉ではどう頑張ってもまだできないことがわかっていて、それは私を堪えようもなく悲しい気持ちにさせていた。

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