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【連載】「聞く」という仕事 第10回「取材における“時間”を考える」/辻本力(仕事文脈vol.23)

ごく稀にだが、非常に短い時間内で取材をしなければならないことがある。

ある時、某エンタメ映像作品に関するインタビュー仕事の依頼を受けた。取材対象者は二人で、もらえた時間は三十五分。そして、これはトータルで、である。写真撮影なども含めた上での時間なので、話を聞けるのは正味二十五分程か、と当たりをつけて臨んだ。

これまでの経験から、三十分あれば、なんとか一通り話は聞ける、という感覚はあった(理想を言えば、一時間くらいは欲しい)。しかし三十分を切ると、やはりちょっと短いなあ、というのが正直なところである。しかも、このケースだと話を聞く相手は二人なので、一人あたりで見ると十二・五分だ。ペース配分をミスれば、話の核心に迫る前に時間切れとなり、中途半端な内容になってしまうことが懸念された。幸いなことに、取材自体はそつなく終わり、取れ高もまずまず。問題なく記事を書くことができた。

取材に割いてもらえる時間というのは、媒体や掲載スペース、企画の性質などによって変わってくるようである。そして、件のエンタメ系作品のようなものだと、人気のある俳優、監督、原作者などが対象となるため、スケジュールの関係から、ものすごくタイトな取材になることも珍しくない。つまり、予定を押さえるのが困難な人たちに、なんとか一日だけ身体を空けてもらい、貸しスタジオなどで複数の、それなりの数の取材を一気にこなしてもらうわけだ。配給会社にも「宣伝」という目的があるので、可能な限り、多くの取材を詰め込みたい。その結果、一媒体あたりに割ける時間は短くなる、というわけだ。しかも、ちょっとでも押すと次に影響が出てしまうため、各取材陣には時間厳守が求められる。我々インタビュアーは、配給の担当者による「あと五分です」といったタイムキープ用紙をちらちらと眺めながら、短い時間内で着地点を模索することになる。

この「極端に取材時間が短い場合」を、ここで少し具体的にシミュレーションしてみたい。

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