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新連載 男には簡単な仕事 第1回 こんな茶番劇……ちょ、待てよ?/ニイマリコ(仕事文脈vol.18)

 まだ10歳にも満たない頃だ。私は、人に対する態度によって自分の性別は自由に選べる、というイメージを持っていた。『セーラームーン』より『ドラゴンボール』や『スラムダンク』に夢中で、その世界で闘うことを夢想したり、着ているものも髪型も、当時の写真を見るとまるっきり〝男の子〟だ。どこへ行ってもボクちゃん、お兄ちゃんと呼ばれ、「マリコなんて名前だから女の子かと思った。」と驚かれる始末。そんな調子だから、「好きなようにしていると自分は男の子と思われるのなら〝男の子〟なんだろうし、そっちの方が楽に振る舞えるな。」と感じていたのだ。もちろん言葉使いやなんかは、TPOでそれなりに注意されもしたけれど、基本的に周りの大人たちはヤンチャな子だね、と笑ってくれていたし、学校のクラスでも〝そういう子〟として男子とも女子とも付き合っていた。

 しかし、小学校も高学年になった時に異変が起こる。比較的大人しい男子……その子の家には最新のテレビゲームやなんかがあって、みんなで遊びに行ったりもしていた仲だったのだが……、年上の兄(ヤンキー)の影響からだと思われる、曲がった性的な知識をひけらかすようになったのだ。新しい玩具を得たように、男子たちはそれを使って女子たちをからかった。喧嘩もスポーツも割と強めだった私ですら、その例外ではない。性的な単語にもじることで、まずは名前を壊された。漫画やテレビで見聞きしてなんとなく意味は察していたが、分からないふりをしてやり過ごそうとすると、今度は履いていたズボンを下ろされそうになったり、やや膨らみ始めた胸にバスケットボールをぶつけられたりした。痛かったけれど、その痛さ自体が謎で怖くて、「いってえな!」と叫びながら投げ返す。

 彼らに極端な悪意があったわけではないこと、新しい〝遊び〟が始まったに過ぎないと、判るのが一番辛かった。

 私は大きな勘違いをしていた。私は、〝男の子〟ではない。


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