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生きるためのフェミニズム おしゃべり会 第1回 ゲスト:フェミニスト手芸グループ山姥 かんな・マルリナ

堅田 「生きるためのフェミニズム おしゃべり会」第1回は、この本の表紙のキルト作品を作ってくれた山姥の2人に来ていただきました。よろしくお願いします。
かんな 山姥のかんなです。私たちはフェミニスト手芸グループ山姥っていうグループをやってまして、2019年から活動をしています。フェミニズムのバッジなどの刺繍や編み物などの手芸作品を作っています。
マルリナ マルリナです、よろしくお願いします。

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『生きるためのフェミニズム パンとバラと反資本主義』の山姥刺繍作品

社会福祉がはらむ暴力や気持ち悪さにも目を向けたいっていう関心を共有して

堅田 2人が山姥を結成したのは、ウィメンズマーチの時でしたよね?
かんな 2018年のウィメンズマーチが最初なのかな。アメリカのデモの流れを受けて、pussy hatがすごく流行ってた時で日本のウィメンズマーチでも友人が被っていたので、それを作りたいって頼んで、被っていた友達に手芸を習い始めたのが最初です。
堅田 簡単にお二人と私の出会いから話してみようかなと思うんですけど、まずかんなさんと私が出会ったんですよね。
かんな そうですね、あれはもう何年前?
堅田 あれはね、もう10 年前だよ。
かんな 大学3年生の時にたまたま参加した勉強会がきっかけでした。社会福祉を学んでいたのですが、なんだか息苦しくなることも多くて。
堅田 そうだったね。その勉強会は、もともと私ともう1人の2人だけで細々と始めたもので。でも、やっぱり2人だと寂しい。で、彼女がメーリスかなにかで呼びかけてくれた。最初は20人くらい集まっちゃったらどうしよう、なんて言ってたんだけど、蓋をあけてみたら数人しか集まらなかった(笑)。その1人がかんなさん。社会福祉って、それ自体が無批判に「よい」ものとみなされがちだし、社会福祉に関わる人はそれだけで「よい人」とみなされるようなフレーミングの中で、社会福祉がはらむ暴力や気持ち悪さにも目を向けたいっていう問題関心を共有していたよね。あと、社会福祉援助技術みたいな個人に働きかけるミクロなアプローチだけじゃなくて、社会のことももっと考えたいね、とか。そんな感じで、社会福祉を学ぶ人たちの中でも、そこにいろんな疑問を持っているような人が集まって、マイナーなゆるい集いをずっとやっていて。その後、2015年のゆるふぇみカフェのイベントでマルリナさんとかんなさんは出会ったんですよね?
かんな そう、紹介してもらったのかな。
堅田 そこで出会ってから意気投合したんだよね。
かんな 私がフェミイベントに行った後に合コンに行くっていう超迷走していて(笑)そのときにマルリナさんが、いつもイベントとか行くと記録みたいなのにとってるんだけど、そこに「合コンさしすせそ」を書いてて。なんだっけ。さ、さすが。
マルリナ し、知らなかった~。す、すごいね。せ、センスいいね。そ、そうなんだー!それだけ言っときゃいいらしいよとか言って(笑)
かんな それで盛り上がる。
堅田 そういう出会いで仲良くなって2人でいろんなフェミニストのイベントに一緒に行ったり。

手芸を通して政治的なものに関わっていくっていうスタンスが素晴らしい

マルリナ une(ユンヌ)の会ってあったじゃないですか。今ふと思ったんですけど。
堅田 あった! イベント1回やったね、労働を問い直す系の。
かんな 忘れちゃったけど、そこの女性センターの人からなんかアドバイスされて、女性活躍とかそういう企画じゃないとなかなかやっぱり、と言われた気がする。
マルリナ 客呼べないとダメみたいな感じだったね。人数が集まらないものはちょっとみたいな。その時、ヨガとか自分で解決しようみたいな、個人でモチベーション上げていくみたいな方がいいっていう傾向になってるのかね、みたいな話しませんでしたか。
堅田 そうそう、まさにそうだよね。あのとき企画したのは労働系のテーマだったけど、そういうのたぶん当時流行らなくて。その後、国立女性教育会館でも集まってイベントみたいなことしなかったっけ?
かんな そんな何回もやったんだっけ、記憶がないんですけど。活動してるじゃん。えらい。マルリナ 私、uneの会の名前の由来とかが結構好きで。フランス語なんだよね。女性で1人みたいな、たぶん英語で言ったら”a”とかそういうのかな。女性名詞につける。
堅田 うんうん、そうだね、ユンヌの会で活動していた。その後2019年ぐらいから山姥を始めて。その後2人は「政治的な手芸部」をやるんですよね。これもちょっとだけお話してもらえますか。
かんな 2020年の1月頃にTwitterで見かけたウィメンズアートというアカウントがあって、女性たちの芸術作品をずっとツイートしてるアカウントなんですけど、それにイギリスのニッターズクラブみたいなところが作った、トランプが英国に来るのを反対するバナーみたいなのが上がって、私もこういうのを作りたいっていうのをツイートしたら結構リツイートされて私もやってみたいですっていう人が結構いて、1回目をやってみて。それで2021年に2枚目を作ってみました。
堅田 1年目と2年目で何が違いました?
かんな 2020年にやったときは山姥の2人だけでやっているっていう感じだったんですけどその1回目に手芸でのつながりとかフェミニズムのことに関心がある友達とかが増えて、2021年はすごくいろんな人が手伝ってくれたっていうのがすごいよかった。いろんな輪が必要だなっていう感じがします。
堅田 うん、私も2年目から少し参加させてもらったんだけど、それすごく感じました。経験が蓄積されて。それぞれが得意なことを自然と分担して、1人じゃ出来ないことをみんなでやってるんだなという感じがすごいしました。ちょっとおしゃべりトーク入って行きたいと思うんだけど。
かんな 入ってなかったんだ(笑)
堅田 ぼーっとしてました(笑)。私は、手芸を通して政治的なものに関わっていくっていうスタンスが素晴らしいなあと思ってて。政治って聞くだけでハードルが高いっていうこともあると思うんだけど、手芸ってわりと日常に根ざしたものじゃない?一方で、手芸は生活の延長だからアートともみなされてこなかった。アートとも政治ともほど遠い行為だって思われがちで。山姥の活動からは、手芸っていうフィールドで、アートでもあり政治でもあるみたいなものを作っていこうっていう、2人のそういう想いを感じるんです。それは私の本でも書きたかったことに少しつながっていて。政治っていうのが常に拳を上げてデモで権力に対峙するってそれだけじゃなくて、一見忘れられがちな、この本の中で言うとはがきを1枚1枚書いて撒いていくという行為だとか、ちょっとした空き地に勝手に種を蒔いて育ててみるとか小さな日常や生活に根ざしたことも充分に政治的でありうるっていうメッセージがあって、それが2人の活動と通じるところがあるなって思って。それもあって2人にぜひこの表紙をやってもらいたくて。だから、すごく嬉しかった。

ネイルにフェミのメッセージを入れてる人を見つけて、あ、何でもいいんだと

堅田 この辺り、お二人はどうですか、政治と日常、アートの関わりとか。
かんな 私は理論付けして始めたわけじゃなくって、でも整理されてできるようになったのは、南米フェミニスト・アート・アクティビズムの講座( https://note.com/kiwama/n/nee18be6041a3 )の影響がすごい大きかったかな。海外のアーティストの人たちがどういう理論付けでやってるのかっていうのを知ったのが、今年政治的な手芸部の人数が増えたっていうのもちょっと繋がったのかなって。
堅田 うんうん、それすごく思いました。草の根的な運動って、各地で実は行われていて、もちろん今言ってくれたように理論化しているところもあればそうでないところもあると思うけど、そういうことを知るっていうことも大事ですよね。2人は刺繍でも、たぶん日本語を使うことに多分少しこだわりがあるのかなと思うんですけど、安易に英語にしたりしないで。でも、ローカルな言語を使ったりローカルなことをやるからといってその他の地域や社会で暮らす人たちに目を向けないとかではなくて、そういうところと一緒にやっている感じがすごくあるなって思うんですよね。ちなみにこの本もそんな感じなんです。ちょこちょこと海外の事例を入れていて、もちろんそんなの入れる意味ない、文脈が違うっていうふうに思われることもあるかもしれないけど、でもそれを知ることは大事だなと私もすごく感じます。マルリナさんはどうですか。
マルリナ 私は、何の話って感じだと思うけど、ジェルネイルにハマってた時に、フェミネイルやってる人がいて。フェミのメッセージを入れてる人を見つけて、あ、何でもいいんだと思ったんです。「それなに?」みたいになるなあって思って。自己満足もできる、自分の爪だからずっと見てられるし。フェミネイルはシールでも売ってないし、そしたら作ればいいんだ、自分でやればいいんだって。無いなら作ればいいじゃん、てそこで気づいたかも。私はね。イベントとか行くとオリジナルのハガキとかバッジとか売ってたりしますよね。みんな作ってる!
堅田 ないなら作ればいいって発想、すごく好き。二人がやってる、日本のフェミニストの布を作るっていうプロジェクトも、そういう布が欲しかったけどなかなかみつからないから作ろうと思ったって言ってたよね。
かんな でもね、海外ほど派手じゃないけど絶対やってた人いると思うんですよね。高知に自由民権記念館ってのがあるんですけど、そこで民権運動に関わっていた女性の運動家たちのクリアファイルを売ってるんです。わたしたち以外に誰が買うんだっていうようなクリアファイル、10枚ぐらい買いましたけど、でもネットでバズったり、大きなムーブメントにはなっていなくても、地味に着実にそういうものがたぶんあったんだと思う。わたしたちは先駆者ではないですが、先輩たちが掘り起こしてやってきたことを、後の時代につなげたいなっていうのはすごくある。あまり知られてなくて本とか絶版になっちゃったりするわけだし。なんか拡声器みたいな、フォロワー500人ぐらいしかないから全然拡声器になってないんですけど。

自由民権運動ファイル

自由民権記念館の女性の運動家たちのクリアファイル

堅田   500人ぐらいいるの?山姥アカウント
かんな インフルエンサー(笑)にはまだまだなんですけど、でもわたしたちに興味を持ってくれるそういう人たちだけにでも、タスキを繋いでいけたらなあって。
堅田 いい!そうは言っても掘り起こされてないものを見付けるのって少し時間がかかるから、今欲しいって思ってなかったら自分たちで作っちゃえばいいし、そういうこともしつつ、同時に、忘れられてきたというか、そういう声を掘り起こす作業も続けているっていうことですね。めっちゃいい、私もすごく共感します。

セーファースペースは、その場にいる1人ひとりの不断の努力が必要

堅田 ところで、2人の代表的作品ってバッジだとおもうのね、たくさん作ってるじゃない、いろんなメッセージで。このバッジっていうアイディアがすごくよいなと思っていて。たとえば、フェミニスト的なメッセージを背負って街を歩くのは怖い、という人もいると思うし、それってある意味当然だな、とも思うんだよね、フェミサイドが起きるような社会だから。でもバッジだったら付け外しができるから、自分でそのバッジをつけるタイミングをコントロールできる。
マルリナ それでいうと、本の中にも出てきたセーファースペースの話だけど、現場、対面の場でもやっぱりあるわけじゃないですか。緊張しなくてよくて、居心地いいなと思える場所。実際なくはない。まあ自分にとってセーファーなだけで他の人が不快に思ってたりするかもしれないけど、自分にはとりあえずはって思えるところって、やっぱりめっちゃ努力してますよね。裏でちゃんとやってるっていうか。それは思いました。
堅田 すごい大事なことだよね。セーファースペースって、ぼーっとしてて自然にできるものじゃないもんね。その場にいる1人ひとりの不断の努力が必要。
マルリナ ネットの世界も同じで、そこをセーファーにしようと思ったら、本当はすごい死ぬほどやんないと無理なんだよね、たぶん。
かんな その場にどんな人がいるのか、あらゆる人が来るということを全員が想像するというのも必要だと思う。フェミニストだからO Kというんじゃなく、お互いに努力するっていう。政治的な手芸部のバナーの文言で書いた話じゃないけど「もう1人も欠けてはならない」っていう気持ちでいられる努力をお互いにしてるかどうか。フェミサイドの話もあったけど、今 トランス差別の問題もあって、やっぱりすごく話が合うなとか、女性に対する攻撃の話とかで同意できてもやっぱりそこで意見が一致しなかったらセイファースペースにはならないし。
堅田 すごく共感する。それを放っておいちゃダメだなって。
かんな お互いにそれを指摘しあえないとだめですよね。
堅田 うん、指摘しあえて、指摘されても逆ギレしないで向き合うこと。
かんな ああ、なんか変なことがあったときに「おかしくないですか」って言えるのはすごい大事。

クレイジーキルト、小さい頃から読んでた『魔女図鑑』に載っていた!

堅田  本の表紙が、クレイジーキルトにインスパイアされて作品が出来上がったと思うんだけど、表紙を作るまでのことを聞いてみたいです。
かんな キルトは下北沢にあるほん吉さんていう古本屋さんに、この『Harts and handsアメリカ社会における女性とキルトの影響』っていう本があって、女の人たちが婦人参政権運動とか運動の一環としてキルトを作ってたみたいなのがたくさん載っていて。で、この中にクレイジーキルトっていう、こう形が四角で揃っているんじゃない、普通のキルトとは違うキルトが出てくるのでそれをまあちょっとやってみたいなと思って今回取り入れて。あと、後付けだけど、この前、何だっけあの魔女の絵本 。

ハーツアンドハンズ表紙

『Harts and handsアメリカ社会における女性とキルトの影響』

マルリナ ああ、『魔女図鑑』。
かんな それにもクレイジーキルトが載っていて。小さい頃から読んでた『魔女図鑑』を、われわれは取り入れてるって。
堅田 すごい!
マルリナ 魔女の必須条件なんだ。面白い、「キルトは手間のかかる仕事です。やりながらイライラすることも多いはず。でもクレイジーキルトなら簡単、型紙はいらないし色合わせや型合わせの必要もありません。古シーツの上でまずは大暴れ、布きれをズタズタにきって思いっきり投げ上げましょう。落ちてきたところで縫い取ってしまえば出来上がり、憂さ晴らしもできたでしょう」だって。 魔女の趣味っていうところに出てくる。
堅田 ほんとうだ、魔女の趣味なんだね。じゃあ2人も魔女だね、そうだよね、山姥だもんね。
マルリナ マウンテンウィッチなんだよ。
堅田 うんうんそうだね。

魔女図鑑表紙

クレイジーキルト

『魔女図鑑 魔女になるための11のレッスン』

どうすれば抵抗し続けられるのか、難しいことだと思うけど、自分の中ですごく知りたい

堅田 2人には本の、初校の手前みたいなやつを全部読んでもらって、そこから印象に残ったシーンや言葉を拾ったりしてそれをヒントに1つ1つの刺繍を作ってもらったんですよね。
かんな 私はいちばん印象的だったのは、ドイツの反ヒトラー運動のために労働者階級の夫妻がハガキを撒いていたっていうところで。何枚か撒いて、10何枚が見つからなかったんですね(注:後で確認したところ、285枚撒いたうち、267枚はゲシュタポの元に届けられ、残りは見つかっていない)。それは誰かに届いたかもしれなくて当局には回収されずもしかしたら今も誰か持ってるかもしれない。だから届いたかもしれない抵抗の跡を入れたいなと思って、残った枚数をインターネットで調べて刺繍したっていう感じで。自分が最近すごく興味があることって、戦時下とかにどうすれば抵抗し続けられるのか、翼賛体制に入らないで生きられるのか、すごく難しいことだと思うけど、自分の中ですごく知りたいし、やっていきたいことなのでこれにすごく共感します。
堅田 うん、ありがとうございます。かんちゃんが縫ってくれてる文字、これはウェイクアップ、目を覚ませっていう意味のドイツ語で、実はスペルミスがあるんですよね。労働者階級出身の二人のハガキにはしばしばスペルミスがある、それを正すのではなく、そのまま表現してくれている。あと、この夫妻は、当時レジスタンスの組織ってそれなりにあったんだけど、どの組織にも属してない。本当に個人として戦ってた。それも大げさな方法じゃなくて、2人が刺繍をするのと同じように生活と地続きのハガキを書くっていうことを、個人として、まさにその翼賛体制に乗らないで行くにはどうしたらいいかということを考えてやっていた。泣けてくる。そういうところを惜しみなく表現してくれて。ありがとうございます。じゃあマルリナちゃんは。
マルリナ 私はガーデニングで抵抗するみたいな話が結構好きで。だから刺繍もジョーロと草みたいなのをやったんです。なんで好きかっていうとやっぱり抵抗のスタイルがいろいろあるんだなって思ったから。デモとか行くとマジで警察にガチで排除されるから「ここは公道じゃないんですか」みたいに逆切れするしかないじゃないですか。「公園ですよね?」とか、溜まるなとか言われて、自分の場所のはずだけどそうじゃなくなりますよね急に、デモ参加者ってなった瞬間に。そういう自分の場所がどんどんなくなってるっていうときに、ここも自分達の場所でしょっていう表明みたいなのがすごい好きだなと思って。
堅田 土地を取り戻すっていう行為だよね。大事!しかも誰でもすぐできて。あと私は刺繍全体としてすごい好きなのは、なんて言うの、洗練されすぎてないんですよ。めちゃくちゃかわいいんだけど、なんかすごく雑多な感じがあっていろんな素材が使われてたり毛がボウボウしてたりとか。平凡な言い方なんだけど味があって、パッと見て山姥の作品だってわかると思うんだよね。そこが好きです、絶対大量生産できないぞっていう感じ。それがクレイジーキルトなんだろうね。
かんな 適当ですね。頼まれた仕事だというのに堂々と言うのはどうなのか(笑)
マルリナ でもさ、投げて落ちた瞬間のところでやればいいって魔女が言ってたし。
堅田 さっきマルリナちゃんが読んでくれたの聞いて思ったけど、偶然生まれるアートなんだね、これ。適当であることこそが大事なんだよ。
かんな たぶん自分たちも並び順覚えてないから、同じパーツがあっても同じように並べろって言われてもできない。
堅田 うんうんそうかも。2度と同じものは作れない。これしかないってことだよね。

(2021年8月15日収録)

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山姥のかんなさん、マルリナさんと、表紙の山姥作品を持つ堅田さん


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